23特別区の歳出にみるランキングの不思議
班長の飯島です。
ちょっと長めの空白がありましたが、元気に財務分析班のレポートをお届けします。なお、今回から「経済・財務分析班」と、タイトルを変更いたしましたので、よろしくお願いいたします。
オリンパスの事件などでなかなか取り組めなかった23特別区の「財政実力ランキング」ですが、今回は歳出の問題について取り上げます。実は、橋下大阪市長の「大阪都構想」について、別のところ(考えなきゃいけない人の飯島謹一U.R.Iレポートhttp://d.hatena.ne.jp/kin-ichi/)でその法的な課題整理を行った時に、「大阪都構想」の肝のひとつ、財政の問題について頭出しだけで終わっていました。おなじ「U.R.I」のレポートということで、こちらで取り上げたいと思います。
個人的には、地方公共団体のあり方について、この国のかたちをつくり直すような改革については、基本的にその必要性を認めています。しかし、その成立の大前提にはふたつの条件があります。まず、必要条件として、地域住民の発意があること。十分条件として、最小限度の住民負担ですむ財政であること、です。
ひとつめは、選挙の結果として民意が示されたということで了解するとして、ふたつ目については、現実の東京23特別区間の財政格差と財政調整の仕組みの課題を踏まえて考えるべきでしょう。
橋下氏が、特別区の設置にこだわる理由の大きな部分が都と区の財政調整の仕組みにある以上、特別区の間の格差の問題、すなわち財政実力ランキングの問題は、橋下氏も知っていた方がいいでしょう。
そうした視点で見て、果たして「大阪都構想」が持続可能な制度足りうるかどうかは、制度設計は官僚の仕事として逃げるわけにはいかないのではと思います。政治家が方向や方針を決めるとしても、その方向や方針が成立するための前提は確認しておくべきだと思うからです。
なにしろ、「大阪都構想」についての認識不足もある反面、東京都特別区についての認識も、橋下氏のブレーンには、どうかと思う誤認があるとしか思えない点もあるのですから。(たとえば、上山信一氏の「続・自治体改革の突破口」http://itpro.nikkeibp.co.jp/article/COLUMN/20120131/379841/?では「あるいは東京の特別区よりも大きな中核市並の権限(保健所、教育委員会の設置等)を与える可能性もある。」と述べていますが、とっくに23特別区には保健所もあれば、教育委員会もあるのです。問題は特別区は、基礎的自治体に位置づけられていても、普通地方公共団体ではないことです。)
それはさておき、歳出です。平成21年度の歳出総額の順位は表の通りです。
No | 区名 | 歳出額 |
1 | 世田谷区 | 246,164,153 |
2 | 足立区 | 237,478,290 |
3 | 練馬区 | 228,591.428 |
4 | 大田区 | 216,930,283 |
5 | 江戸川区 | 213,313,644 |
6 | 板橋区 | 170,827,470 |
7 | 葛飾区 | 158,295,936 |
8 | 江東区 | 157,333,622 |
9 | 杉並区 | 149,103,804 |
10 | 品川区 | 140,226,365 |
・ | 23区平均 | 136,819,264 |
11 | 新宿区 | 127,381,983 |
12 | 北区 | 123,981,727 |
13 | 中野区 | 121,309,263 |
14 | 港区 | 120,500,831 |
15 | 墨田区 | 100,265,168 |
16 | 豊島区 | 96,027,072 |
17 | 荒川区 | 91,669,315 |
18 | 台東区 | 90,378,777 |
19 | 目黒区 | 89,062,319 |
20 | 渋谷区 | 82,615,402 |
21 | 文京区 | 73,534,907 |
22 | 中央区 | 67,263,311 |
23 | 千代田区 | 44,588,013 |
(単位千円)
第1位の世田谷区の平成21年度の歳出総額の決算額は2461億円余、23位の千代田区は445億円余で、両区の間には、およそ5倍以上の開きがあります。しかし、これがそのまま財政実力かといえば、そうではないのです。千代田区の人口はおよそ5万人程度、世田谷区は90万人弱で、本来なら18倍程度の規模の開きのはずです。人口規模に応じて財政規模が決まっているわけではなく、その他の要素、たとえば担税力のレベルなどにより財政実力が決まるということでしょう。
次に、区民一人当たりの歳出額のランキングをみます。
平成21年度の区民一人当たりの歳出額の決算額ランキングです。
No | 区名 | 歳出額 |
1 | 千代田区 | 888,384 |
2 | 中央区 | 560,743 |
3 | 港区 | 537,919 |
4 | 台東区 | 502,450 |
5 | 荒川区 | 449,992 |
6 | 墨田区 | 402,366 |
7 | 新宿区 | 400,898 |
8 | 渋谷区 | 400,523 |
9 | 中野区 | 388,079 |
10 | 品川区 | 387,897 |
11 | 文京区 | 372,908 |
12 | 北区 | 370,243 |
13 | 豊島区 | 363,382 |
14 | 足立区 | 356,333 |
・ | 23区平均 | 354,828 |
15 | 葛飾区 | 353,753 |
16 | 目黒区 | 341,188 |
17 | 江東区 | 336,302 |
18 | 練馬区 | 323,180 |
19 | 板橋区 | 318,246 |
20 | 江戸川区 | 314,382 |
21 | 大田区 | 312,848 |
22 | 世田谷区 | 289,858 |
23 | 杉並区 | 276,522 |
(単位 一円)
このふたつの表は劇的な順位の逆転を示しています。歳出総額で23区平均を上回る区が区民一人当たり歳出額では23区平均を下回り、逆に歳出総額が23区平均を下回る区は区民一人当たり歳出額では平均を上回る結果になっています。
この逆転劇の唯一の例外が、目黒区です。歳出総額でも、区民一人当たり歳出額でも23区平均を下回っているのです。
しかし、実力の中身は歳出の構成を調べてみなければわかりません。次回は平成22年度決算でこのランキングがどうなったのかと、歳出についてその中身を検討してみようと思います。