想像力、不正経理、船中八策

以下、意見については個人のものです。
数字はリアル
 不正経理を行うときも、ひとは何らかの根拠のある数字を使うものらしく思いました。ばれたときに錯誤の言い訳をしやすいためにある種の合理性を持った数字を使うということなのでしょうか。あるいは、ここにも、思いつくという、想像力の問題があるのかもしれないということを「私の見た不正経理―社会保障の検査を中心として」から感じました。
 先日、3月21日、愛知県豊橋市に本部を置く医療法人「豊岡会」が、昨年までの5年間に約50億円の診療報酬を不正に受給していたとの報道がありました。
 記事を要約すると、同会は昨年10月には介護保険報酬25億円の不正受給が発覚し、愛知県と浜松市から入院患者の受け入れ停止などの行政処分を受けていたました。今回、療養型病院4施設で、看護師の数を水増しして、実際よりも高い入院基本料で診療報酬を請求していたということで、それには、3ランクある入院基本料の最低ランクを2番目のランクで請求していたというものです。最高ランクで請求していないところに、やはりというものを感じます。
 実は、都道府県には医師等の配置に関する資料が保有されていますから、保険医療機関からの不適正な医療費の請求があっても適切に対処するよう、会計検査院から是正改善処置の要求がかつても出されていたことが、先の「私の見た不正経理―社会保障の検査を中心として」に平成元年度の検査報告「医師看護婦不足で過大請求12億2805万円」として事例が出ていました。
 当時と比べると、不正請求の額が飛躍的に増えていることに驚きますが、09年度には36兆円を超えた医療費にあって、無用の医療費の支払いは厳に避けなければならないことです。
 これ以外の事例が数多く紹介されていますが、すでに死亡していた受給権者に年金を支払い続けていた「死者に年金28億500万円」という平成5年度の事例は、保険医療機関の診療報酬の不正請求と共通の課題が見えるものです。

データの活用が出来ないことに問題が
 この「死者に年金」の事例は最近の報道でも知られていますので、ことの詳細は省きますが、いったん生じた過誤払いによる返納金債権の回収率が低く、収納未済額、不能欠損額の増加につながることから、まずは、過誤払いの発生を避ける努力が求められるところです。
 年金の受給権者の死亡についていえば、戸籍法に基づく死亡届の提出がされますが、これは墓地、埋葬に関する法律により市町村長の許可を得なければ埋葬等が出来ないことによっているのですが、市町村長に提出された死亡者情報は都道府県を経由して厚生大臣官房に調査資料として所定の期日までに提出されています。このデータを活用できる事務処理体制の整備を図ることで年金の過誤払いの発生を防止して、年金支給の適正化を図る必要があることが、会計検査院の是正改善の処置として要求されています。
 つまり、医療機関の場合も年金支給の場合も、行政組織の保有する情報を適切に活用することというあまりにも当たり前の基本に課題があるということです。
 そしてもうひとつ、是正改善の処置要求はどう処理されたのでしょうか、という疑問が残るのです。

根拠ある数字による不正経理
 国民健康保険に係る財政調整交付金は、調整対象収入額と調整対象需要額の差額に別に定める率を乗じて調整額を計算されます。ただし、その計算の際に、健康保険料収納率による5%から20%の減額に対して、数字を操作して不当な交付金を得ようとする不正が行われることがあるのです。保険料収納割合算定の基礎となる前年度保険料の調定額を過小にしたり、収納額を過大にすることで収納率を高くするものですが、その際使われる数字は、滞納保険料や保険料課題納付に係る還付未済額など根拠のある数字です。
 収入額、需要額という言葉からは、一般財源での財政調整にも連想は及びますが、一定の基準で計算された金額を、ある指標により減額するという構造は、医療費の場合と同じです。
 果してそれをどのように使って不正経理をしたのかについてはこの本を読んでいただくとして、一度数字を操作すると、さらに捜査を続けなければならなくという悪循環に陥るのもリアルな数字を使うからでしょう。その後の悲しい出来事など詳しくは著作に譲ります。本書にはその他にも興味深い事例が紹介されています。

「帳簿の裏」を読むのではなく見ることの重要性
 また、事例ではありませんがなかなかに面白いエピソードも紹介されています。たとえば、超過勤務手当についての検査では、どうも変だという感じを持った著者が都庁、退庁の時間を示した施錠簿をためすすがめつ見ていくうちに、「帳簿の裏を読む」ではなく見ているとあることに気づくのです。それはプリントアウトの裏紙を利用した帳簿でしたが、打ち出しの日付がある紙で、日付は当該月よりも後であり、後から改ざんして作成したことを発見するくだりなど、小説のようです。
 小説といえば、会計検査院の職員が都道府県に検査に赴くときの表敬訪問の様子や検査終了の際の講評についても記述されていますが、それを読んでいて、プリンセス・トヨトミ (文春文庫)を思い出しました。
 そして、プリンセス・トヨトミ (文春文庫)の舞台が大阪府であること、さらに大阪といえば、大阪都構想につながるものがあることにも思いは及んでいきました。

「維新版・船中八策」のたたきだいについて
 大阪維新の会の「塾」について、その盛況ぶりについてメディアの報道も過熱して、再び橋下市長の動向に関心が集まっています。
 現在の国政の状況をみれば注目されるのも無理からぬことと思いますが、維新塾については5回程度の講義が予定され、最終的には、たたきだいで示された「船中八策」を最終的な形に取りまとめるということが伝えられています。
 その「維新版・船中八策」ですが、単に八項目が示されたものではないことはあまり知られていないようです。マスコミなどがセンセーションに伝えた一部だけではないということです。
 産経新聞による骨子前文によれば、「維新八策」の目的として9項目、統治機構のつくり直しとして17項目、財政・行政改革として7項目、公務員制度改革として6項目、教育改革として8項目、社会保障制度として12項目、経済政策・雇用政策・税制として30項目、外交・防衛として8項目、憲法改正として4項目があげられています。この中には重複する項目もあります。また、次元についても「大学も含めたバウチャー制度の導入」という具体的なものから「岩盤のように固まった既得権を崩す」という抽象的なものまで、様々なレベルのものが混在しています。
 今後どこまでまとめ切れるのか、「維新の会」の将来動向を占ううえでも関心を持って見守る必要があると思います。
 その項目の一つ、「ベーシックインカム」については、機会を改めて取り上げてみたいと思います。

今回の資料

これまでの会計検査院の検査と指摘事項は、けっして過去のものではないことを是正改善要求とその後の処理を考えると痛感します。地方公共団体や省庁の不正経理について、その構造をあらためて考えてみる必要があります。

大阪都構想にダブルところが面白いです。


関係はないのですが
まったく別のことではあるのですが、日本酒にも「船中八策」という銘柄があります。司牡丹酒造のお酒です。同社のサイトhttp://www.tsukasabotan.co.jp/でみる限りでは、最近の社会情勢とは関係なく、このお酒が一押しになっていないところなど、淡々と土佐の酒造らしくて、好感が持てるのでした。
 とりあえず紹介しておきます。

ー数字について一部書き直しましたー