夏だ!海の話題その2 海流と漂うもの

 班長の飯島です。
 意見は私自身のものです。

 前回、海の話題で取り上げた本の中に、「熱塩循環」のことが書いてありました。これは海洋深層大循環のことで、北大西洋グリーンランド沖と南極周辺で、低温と高塩分で密度が高い水が沈みこみ、海洋の深層をめぐって再び表層にもどり、2000年ほどかけて世界の海洋を一周する流れです。温度と塩分濃度を駆動力としているゆったりとした雄大な流れですが、これに限らず、海にはいくつもの海流があり、さまざまなものを浮かべ、流しているということでしょう。
 そして、東日本大震災津波で海に押し流された大量のがれきが、やがて漂流物としてアメリカ大陸に本格的に流れつくのがこれからだということです。
 がれきだけでなく、放射能もまた、海洋深層に漂うものは、ゆっくりと地球を循環し、あるいはがれきとともに他の国の漁場に到達することも考えられます。
ここから、ふたつの問題が考えられます。ひとつは、どの程度の放射能が海に放出、あるいは流れ込んだのでしょうか。そしてもうひとつは、それらのがれきや放射能が外国の人々や生活に被害を与えたとき、損害賠償請求はどうなるのかということです。

福島原発事故による海洋汚染は?そして、賠償は?
湯浅一郎氏の『海の放射能汚染』によれば、福島原発事故で大気、海洋に放出された放射能の全体量はいまだに不明で、東電が発表したデータには肝心な部分が欠落しているといいます。

それは、3月30日から4月7日ころに最大となる発電所近傍海水濃度のの上昇をもたらした放出に対する説明が一切ないことで、国際原子力機関の理事会に提出した政府の報告書では4700兆ベクレルとしていますが、フランス放射線防護原子力安全研究所は2.7京ベクレル、日本原子力研究開発機構の1.5京ベクレルの数値を紹介しつつ、湯浅氏は大気放出の半分は海面に降下したとみられるとして、約10京ベクレルが海洋に降下したことになる、としています。
 また、福島県から茨城県沖を中心に、海底堆積物に相当量の放射能が沈着したとみられ、これが二次的な汚染源となる恐れも指摘しています。
 これまでのビキニ環礁など、大気圏核爆発、欧州や日本の再処理、原発による汚染、惑星海流と海洋生物の生活史などから汚染状況と影響を明らかにしています。

 海洋汚染の問題に関連しては、海外からの損害賠償請求も考えに入れておく必要があるという指摘もあります。外国漁業への被害や、風評被害、慰謝料などを考えると、どこまで広がるのかわからないところがあります。
 この点について、井上薫氏の『原発賠償の行方 (新潮新書)』は、関連する法律として3つをあげています。


それは、パリ条約、ウィーン条約原子力損害の補完的補償に関する条約の三つです。そして、日本はこの三つの条約のどれにも加盟していません。その理由は、ここでもあの誤れる安全神話、「日本では事故は起きない」を前提としていたからだと指摘しています。
 加盟していないと、外国で起きた事故に対する訴訟は日本で起こすことができて有利ですが、日本が事故を起こしたときは被害国の裁判所に訴えを起こされ、被害国の裁判所の判決で賠償額を決められるということです。この不利は、アメリカなどでの日本企業への賠償金の巨額さでもうかがわれるでしょう。
 事故調査報告書で放出放射能についての記述や今後の課題にどのように触れているのかを考えると、時の経過とともに影響の範囲がじわじわと広がって、深刻さを増していくように思えるのは私一人ではないと思います。