ガバナンスの迷走

 班長の飯島です。
 意見は私個人のものです。

会社法改正要綱案が迷走ではないのか

 8月に法制審議会は会社法改正要綱案を決定しましたhttp://www.moj.go.jp/content/000100819.pdfが、監査役制度そのものの強化ではなく、社外取締役の設置義務付けが見送られ、設置しない場合には有価証券報告書に理由を開示すれば済むことになったり、社外取締役監査役の要件に係る対象期間の限定に10年という期間がつくなど、財界の意向を反映した内容で、企業ガバナンスの向上は見かけを取り繕っただけではないか、という声も多いです。秋の臨時国会会社法改正案を提出する予定だとされているが、特例公債法案など重要法案の行方も見えていないだけぢ、こちらも迷走しそうです。
 一方、金融庁オリンパスの巨額の損失隠し事件などを受けて、企業の決算をチェックする監査法人向けに、不正を発見するための新たな監査基準を策定する方針を固め、2013年度から仮称「不正対応基準」を適用する方針だといいます。新しい基準では特別目的会社の利用などを不正手段の代表例として列挙するなどしています。
 さらに、AIJ投資顧問の事件を受けて、ダメージを受けた企業年金をはじめ、企業年金の持続可能性に対する不安感を払しょくするために、厚生労働省は、給付減額を認める基準について明確化させる方針を表明したという報道もありました。年金減額は、確定給付型が確定ではないことを意味するわけですから、積立の過不足が生まれる要因にまで立ち入った改正が必要になると思います。
 年金資産の運用による失敗だけでなく、予定利率を使う積立会計では、債務認識に意図的な部分があることをふまえなければなりません。高い予定利率の条件設定の下では、積み立て不足は発生しにくいこと、掛け金を引き上げなくても済むことなどがありますが、実勢金利と予定利率とのかい離が大きくなれば、運用成績の良い投資顧問などに目を向ける下地が出てくることになります。
 そこで、給付減額の問題が出てきて、厚生年金基金では、1997年に給付減額が解禁されています。根拠法に基づく確定給付年金では、給付減額の手順には「理由要件」と「手続き要件」が設けられていますが、今回の方針は「理由要件」から、「母体企業の著しい経営悪化」をはずすというものですが、それでもなお、裁量の余地が残り、申請を受け付ける厚生局によっても対応が違うことがある、などの指摘もあります。
 国のガバナンスの問題も領土問題で迷走ぶりが際立ってきています。これに関連した海洋法関連の話題は次回にするとして、日本の企業ガバナンスへの信頼性回復も急務と言えます。


監査役機能を高めるためには
 監査役リスクマネージメントについて今一度、原点的考察が必要になったとき、『監査役の条件―8つの新発想でリスクマネジメントを使いこなす』が参考になります。

PDCAサイクルでは監査役にとってのリスクを管理することは出来ず、ICPPCRサイクルというリスクマネージメント運用システムが必要というのが著者の主張です。順番に言いますと、リスクの発見、予知、予防、対処、復旧というものです。著者のいう8つの新発想も参考になります。


会計・経理のツボ
 たいへん刺激的な、タイトルの本があります。『決算書の9割は嘘である (幻冬舎新書)』ですが、元国税調査官の書いた本です。

 それによると、脱税している企業は、かなり高い割合で裏帳簿をつくっているということです。発見されれば、ハイそれまでなんでしょうが、そこには脱税者に共通の心理が隠されているというのです。信頼性と合わせ、本当はいくら儲かっているのかを知りたいという心理が働いているといいます。それと、最も多い脱税は駆け込み型だといいます。まあ、詳細は本書にあたってください。


 一方で、人を幸せにする経理ということを説いている本もあります。金児昭氏の『新版・教わらなかった会計―カネコの道場 経営実践講座 (日経ビジネス人文庫)』です。

 金児氏の主張は「会社や経理・財務は人間を幸せにするためにある」というもので、「エンピリカル・ナレッジ」すなわち、経理・財務の実務上の体験や知識を基本とするものです。また、「お金を貸す方の評価基準はその会社がしっかりしているかどうかであって、どんな会計基準を導入しているかではない」という言葉もなるほどでしょう。
 この会計基準に踊らされて、損失を隠し先送りするために「のれん」を不正に活用したのがオリンパスでした。そのオリンパス報道で気を吐いたのが大手ではない雑誌報道とブログでした。その関係の書籍を2冊紹介しておきます。

  

企業年金に係るAIJ投資顧問の事件にもかかわるタックスヘブンについて『タックスヘイブンの闇 世界の富は盗まれている!』と『タックスヘイブン―グローバル経済を動かす闇のシステム』という2冊を紹介しておきます。ロンドンのシティーの向こうにあいた暗闇を思い浮かべると、昨今の金利不正や、大手投資銀行の失敗なども何か透けて見えてくるような感じです。

  


企業年金再生がセーフティーネットを強くする
 公的年金制度だけでなく、企業年金制度の再生が私たちの社会のセーフティーネットを、高齢社会の急速進行の中で強化することにつながるという思いはあります。重層的に構築された社会保障制度でなければ、持続可能性を高め、信頼感を生みだすことにはなりません。信頼感が生み出されなければ、デフレ脱却も難しいのです。
 企業年金のガバナンスが問題と説く本書『企業年金再生―老齢大国を襲う危機の構図と生き残りの方策』が出た後に、AIJ事件が起きました。ガバナンスの構造変化に伴い、改めて年金が誰のものなのか、そして過度の公的年金依存がもたらすリスクを冷静に考えてみる手がかりがここにあるといえます。


会計力を鍛える
 最近の傾向として、決算書を読むあるいは読み解くテクニックを説いた本が流行っています。ビジネスの武器として、必要だという認識がつくられているようです。
 私もご多分にもれず、この手の本が大好きですが、村井直志氏の『決算書の50%は思い込みでできている』、『会計ドレッシング』に続く第3弾、『会計直観力を鍛える』も手にとって、さっそく分析シートを何枚もコピーして決算分析をしてみました。

 使ってみないとわかりませんからね。