チャイナ、チャイナ、チャイナ

 班長の飯島です。
 意見は私個人のものです。
 今年の初め、現在のような領土問題に関連してではなく、文字通り国際社会における中国のプレゼンスについて考える必要があるのではないかとふと思ったのですが、ふと思う以上に、ことはさまざまに深刻な影響を、たとえば、尖閣諸島の問題がiPhone5の供給に影響を与えるかもしれない(iPhoneは中国で組み立てられている)、などといったレベルのことまで含めて、私たちに与えることが懸念されています。
 しかし、中国について短兵急な結論は出すべきではないでしょうし、そもそも、それは無理なことだと思います。そこで、さまざまな角度から、今後の世界にとって無視することは決してできない国、中国について、考える手がかりを選んでみました。

キッシンジャーの初めてのディベート、『中国は21世紀の覇者となるか?』
中国は21世紀の覇者となるか?: 世界最高の4頭脳による大激論』「世界最高の4頭脳による大激論」という副題の本書は、2011年6月17日、トロントのロイ・トムソン・ホールで開かれた「カナダを代表する公共政策関連イベントとされる「ムンクディベートhttp://www.munkdebates.comの第7回の記録です。確かに、ディベーターの顔ぶれを見れば、副題も決して大げさではないと思います。ヘンリー・キッシンジャー、ファリード・ザカリアが中五億の覇権国化論にくみしない立場、ニーアル・ファーガソンと精華大学中国世界経済研究センター主任でもあるデビッド・ダオクイ・リー博士が議題に賛成の立場です。
 キッシンジャー博士は、公開ディベートに参加するのはこれが初めてという、記念すべきイベントでもあったようです。興味深いのは、リー博士の発言の中の、3つのキーワード、中国の変化の原動力となる、西側諸国との壮大な文明の衝突から生まれた「エネルギー」、そして、キーワードの2番目が、変化の目的地である「唐」の時代の「復興」、3番目が新興国への発展の手本となる「影響力」、独自の経済・社会モデルの形成、そして、中国が唐のような偉大な文明として復興することによる国際関係への影響力です。
 1500年前の唐の復興という、中国なら、いかにもありそうとも思わせる時間の感覚です。
 キッシンジャー博士の、中国の時間感覚に応えるような「歴史的にえば、中国の外交政策は夷てき管理でした。中国がおおよそ自分と対等な力をもつ国々からなる世界を扱う必要に迫られたことは、ついぞないのです。」という認識にはさすがと敬意を表する以外ないのですが、今後の国際的構造について、いまだかつて扱ったことのない諸問題についって、「サイバースペース」をあげていることにも注目しました。日本をどう見るかについても触れています。
 さらに、元米国国防長官ウィリアム・コーエンの会場からの質問に答えるかたちでの、台湾や南シナ海での主権や領土・領海問題についても、議論がありますが、それは本書にあたっていただくことでしょう。
 最後にキッシンジャー博士の言葉を。「課題は、米国が進歩の世紀を経て自らを再定義できるかどうか、また中国も経済成長を吸収して自らを再定義できるかどうかです。」そして、「既に知っていることを組み合わせてモノを考える力は、まさにボタン一つでどんな情報でも引き出せるようになったからこそ、先々を見据える思考力が衰えています。つまり現代の私たちは、人類史上、まったく新しい時代に生きているということでしょう。」

 ディベート参加者の一人、ニーアル・ファーガソン文明: 西洋が覇権をとれた6つの真因が出版されました。競争・科学・所有権・医学・消費・労働の6つが西欧社会の強さの秘密としていますが、エキサイティングな内容については 、第1章 競争 二つの河川 宦官とユニコーン 香料合戦 二流の王国、 第2章 科学 包囲 顕微鏡図鑑 オスマンとフリッツ オスマン帝国再建計画 イスタンブールからエルサレムへ 、第3章 所有権 新世界 自由の地 南北アメリカの革命 ガラ人の運命、 第4章 医学 バークの予言 戦闘力 一九世紀版「国境なき医師団」 シャーク島のしゃれこうべ 黒い恥辱などの目次を見ればうなずけるのではないでしょうか。 

中国を動かすのは『チャイナ・ナイン』か?
 中国を動かしているパワーパーソン、それが9人の中央政治局常務委員です。だれがこの中央政治局常務委員になるかによって、団派、太子党などの消長が見えてくるということでしょう。一部の報道では、この中央政治局常務委員の椅子を一つ減らして、「チャイナ・エイト」にするようなことが伝えられたが、本書『チャイナ・ナイン 中国を動かす9人の男たち』を読むと、仮に政治局常務委員の人数が8人になっても、やっぱり中国を動かすのはチャイナ・ナインではないかという思えるのです。9番目はだれか。本書には中国のインターネット事情が語られているのですが、実は、いずれ中国を動かすチャイナ・ナインの一つに、インターネットにつながる中国人民、「網民」がなるのではないかと思えてきます。
 著者の経歴をあとがきで知って、胸衝くものがありました。

 

そして、裁判の報道などで再び関心が集まっている、薄煕来についても、本書『チャイナ・ジャッジ 毛沢東になれなかった男』はぜひ押さえておきたい一冊です。

 この秋には中国の顔となる、1953年生まれの習近平についての本書『習近平―共産中国最弱の帝王』で、生い立ちや考え方、母親や妻などについて知っておくことも大事かもしれません。

本当のチャイナインパクトとは?
 「日本は幸せだ。自分が成長した後でも、周辺国が成長してくれるのだから。中国が成長した後は何に頼ったらいいのだろうか。」という、ある中国国家指導者の言葉を紹介して始まる本書チャイナ・インパクトは、日本のとっての中国、中国にとっての日本を含めた周辺国について考える手がかりを与えてくれます。

 中国経済の強さの秘密について、新興国だからという理由や地理的条件については、著者は否定しています。それでは答えは何か?その鍵は、中国独特の「政経一体システム」にあると著者は語りますが、これは、先に紹介した『中国は21世紀の覇者となるか?: 世界最高の4頭脳による大激論』の中のデビッド・ダオクイ・リー博士の指摘に通じるものがあります。
 台頭著しい中国系ざ、時間はもはや後戻りすることはないでしょう。しかし、キッシンジャー博士が指摘した米国の強みと同じ強みを日本も持っていることを本書は指摘しています。すなわち、一国の経済力を国民一人当たりでみたときの豊かさです。
 中国の経済成長を吸収することが日本の豊かさを維持する一大要因であるとして、相手の中国に、日本を必要とする要因はあるのでしょうか。国際社会での経験を著者はあげていますが、それも最近はどうかなと思います(日本の現状を見ますと)が、多国間の関係の中で、日本がよりプレゼンスを高める経済以外の要素を打ち出すことが急がれる気がします。

「唐」の再興を目指す国に「負けしろ」の多さは通じるか?
 中国の領土問題についての民族的トラウマは、アヘン戦争にさかのぼるという著者の指摘は、これまた『中国は21世紀の覇者となるか?: 世界最高の4頭脳による大激論』の議論を想起させます。
 はい、内田樹さんの『増補版 街場の中国論』のことです。

 「領土的譲歩は」中国人に「屈辱の百年」を想起させるという著者の言葉をふまえると、中国共産党内の保守派云々というにとどまらず、領土ということになると、中国民衆の愛国モードに一気にスイッチが入るという『チャイナ・ナイン 中国を動かす9人の男たち』の記述も想起されます。それじゃあ、日本では領土と言うとどんな民族的潜在意識があるのかと、我が身を振り返ることになります。
 「真の国力というのは」と、内田さんは説きます。それは「勝ち続けることを可能にする資源」の多寡で考量するものでなく、「負けしろ」をもって考量するのだというのです。そして、日本の『圧倒的な優位は「負けしろ」の多さである。』といいます。
 つまり、外交・内政の失策が、暴動やクーデターにつながらない日本の「民度的余裕」、「ゆるさ」が日本の優位と説く著者の中国論を踏まえてみて次に進みたいと思います。

アメリカと日本経済が圧倒的でなくなったときの「国家の安全保障」は?
 今日、著者が『外交的思考』で説くような「国家安全保障会議」の設置について、否定的な人は少ないのではないかと思います。

 政権党がどの党であっても、「政府のもっとも重要な仕事は、国民の安全を守ることである。」には変わりがないのですし、それを着実、有効に果たすための仕組みは、その責任を有する者にとっては最大の重要事項であるはずです。
 日本に、「安全保障会議」がないわけではありませんが(安全保障会議http://www.cas.go.jp/jp/hourei/houritu/anpo_h.html、いつものことで、機動性に欠けるという著者の指摘は、昨今の政府のあり様を見れば一目瞭然です。この場合、国家の安全保障に関する会議なのですから、機動性に欠け、形骸化されているようなものであるとすれば、これは致命傷です。構成メンバー、事務局、秘密保持、そして最後には人だというのですが、この文章が書かれてから5年、事態はあまり変わらない気がするのは残念です。

なぜ、大連では反日デモが激しくなかったのか?中国民衆の意識と生活
 今回の反日デモは、大連ではそれほどではなかったとの報道がありました。日本企業との関係が深いというのであれば、パナソニックの例もあったのであり、それでは説明がつきにくいと思われます。
 たまたま読んだ、『本社も経理も中国へ―交通費伝票は中国で精算する』になんとなくヒントがありそうな気がしました。

BOP、ビジネス・プロセス・アウトソーシングを大連で展開する話ですが、この本を読んでいたので、大連が比較的平穏であったというのは、そうかも、と納得できました。

ウサギ小屋ではなくてカタツムリの家
 さらにもう一冊の本が、今日の中国民衆の生活と意識を語って余りあるものとなっています。中国で爆発的人気を博したテレビドラマ「蝸居」の原作です。中国のテレビドラマは、その多くは制作会社が製作してテレビ会社に売り込む形式だといいます。このドラマは北京で放送され大ヒットしました。当然、全国で放送されるものだったようですが、なぜか上海東方衛星テレビで放送開始されあ1週間後、突然打ち切りになってしまったといいます。あまりに内容が事実だから、と中国人たちはささやきあったというのですが。
上海、かたつむりの家

中国の庶民の実相と中国共産党指導部の抱える問題の一面をみる思いがします。
今回は一気に中国でした。

さて、お知らせですが、もう少し幅広く書籍紹介や気になるものやことをレポートしたいと思い、タイトルや内容について一新することにしました。今後ともよろしくお願いいたします。