東京駅の謎とこれからは?

ミステリーが教える事実もある
 人鳥堂の飯島です。

 東京駅が新しくなった。いや、復元ということから考えれば、元の姿に戻ったということだろうか。しかし、今風になったところもあるのではないでしょうか。東京駅をめぐる書籍の出版は、これからがにぎやかになると思われますが、駅舎が中心のモノが大部分ではないかと思います。そこに行くと駅舎工事の完成前に出版された『徹底図解!!よみがえる東京駅 (洋泉社MOOK)』は、駅舎だけでなく、東京駅自体にフォーカスしてムックらしく話題を拾っているのがいいところです。

 そのなかのひとつ、「東京駅探検」で紹介されている「5,6番ホームに残る最古の柱」をさっそく見に行ってきました。有楽町駅側に立っている柱で、緑色と白色の色があり、緑の支柱も、「構本」と「構副」があります。写真は「構本」のものです。柱頭のアカンサスのような装飾が、イギリスのヨーク駅のものとよく似ていて、ここがルーツではないかとのことです。また、駅屋根を貫いて架線を支える緑の支持物の形状も円と直線の組み合わせに共通のデザインが感じられます。
 ちなみに、柱に取り付けられたプレートのM43の文字は、明治43年の製造をあらわし、さらに書かれている「アンカーボルト」の文字が示す意味は不明です。眺めるときには、入線してくる電車と乗降客に注意が必要です。
 なんで5,6番ホームに開業当時の柱が残されたのかは定かではありませんが、ムックに掲載されている昭和20年8月31日の写真から一つの推測ができます。空襲を受けて破壊されたホームの写真ですが、それからは、現在の5,6番ホームの屋根が、有楽町駅側で一部残されているのが見て取れます。その場所に、あのデザインの架線支持物が映っていて、それを支える柱も残されていることがうかがえます。現在の5,6番ホームの屋根はその部分と逆ガル形状の屋根が接続されているという中途半端な状態を見ると、戦後の応急復旧のままに今日まで来ているのかとも、根拠もないのに思われました。
 さて、「東京駅探検」にはもうひとつ、「東海道新幹線開業の痕跡をたどる」という開業の歴史が紹介されています。歴史と言えば、中央通路の「浜口首相遭難現場」を示す床のデザインを見たときに、かつて、当時東ドイツであったドレスデン市を訪問したときのことを思い出しました。道路の上に「N]と書かれたプレートが打ち込んでありました。はじめは北をあらわすものかと思ったのですが、実はナポレオンがモスクワから敗退してくる兵士をここで迎えていたところだったとガイドから説明されて感慨深いものがありました。
 それはさておき、屋根上の架線支持物を見るため、一段高くなっている、となりの7,8番ホームから5,6番ホームを見ているときのことでした。有楽町駅側のホームの端に近い、一般乗降客の入れない場所に、乗客の車いすを押して歩く駅員の姿を見ました。やがて貨物用の様なエレベーターに乗り込んで姿を消していきましたが、ちょっとわからない光景でした。
 その事情が分かったのは、あるミステリーを読んだときです。東京駅を舞台にした推理小説と言えば西村京太郎をはじめ結構ありますが、まずは、松本清張「点と線」でしょう。トリックの重要な伏線に東京駅のホームの構造を使っていることでも発表当時話題になりましたが、私が読んだのはそうではなくて、山口雅也の『古城駅の奥の奥 (講談社ノベルス)』です。
  
古城駅とは言うまでもなく東京駅のことですが、このなかに、障害者用の通路のことが書かれています。かつてホーム下に荷物用のトンネルがあり、ホームへのエレベーターが設置されているとのことですが、まさに、私が見たのはその通路を利用した情景だったのでした。ミステリーによれば、設置当時のままのものだそうで、バリアフリーの構造物としては適当かどうかと考えてしまいますが、これも事件の伏線の一つになっています。伏線と言えば、殺人事件が東京駅のかつての自由通路からいく霊安室とステーションホテルで起きるのですが、物語については、作者がタイトルをステーション駅から古城駅に解題したことと、冒頭から伏線に満ちていることぐらいしか、ミステリー紹介では言えません。
 小説の重要な伏線となっている東京駅の通路ということになると、かつて、同じ仕事の先輩が遭遇したという事故のことを思い出します。立ち入り禁止の地下通路に踏み込んだ先輩が階段で足を滑らせて転倒して大けがをしたのだそうですが、普段人が立ち入らないところだけに、見つかるまでに大変だったそうで、あわや、とも思える、九死に一生を得た事故だったということです。
 ご本人はその後けっろとした様子で、額にばんそうこうをはって歩いていたようですが、何かと話題の多い先輩が、このミステリーを読んだらどう思うでしょうか。
 これも昔ですが、中野駅バリアフリーで新宿のJR東日本の本社をたずねたことがありました。そのとき、高架ホームへのエレベーター設置は、一般の乗降客とは別導線の、東京駅の方式に近いプランが示されたことを思い出します。(現在、実現されてはいません。プランだけだったのかっもしれませんが。)
 丸の内駅舎の工事が完了した後は、バリアフリー整備にも取り組む必要があるのではと、日本の鉄道の表玄関である東京駅だけに、強く思います。
 意見は私個人のものです。
 一部訂正しました。