通貨の信認が失われたときに

 人鳥堂の飯島です。意見は私個人のものです。
 これからちょっとの間、経済政策のバックグランドを踏まえておくための書籍を取り上げてみます。

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新書で今を読む
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円に買われる理由などいらない?
 
佐々木融著「弱い日本の強い円」(日経プレミアシリーズ)

 アベノミクスの見方のバックグランドのひとつは、通貨、為替の問題だと思います。25年1月の貿易収支の速報値が財務省から発表されましたが、今後の経済政策について、自分の判断を持つために、これまでの通貨や為替相場についての「通念」を再検証して、通貨をめぐる日本経済の枠組み、ファンタメンタルズの変化を抑えておく必要があるのではないでしょうか。
 そのための手掛かりとして、本書は納得の一冊でした。著者の略歴、日銀の調査統計局、国際局為替課、ニューヨーク事務所、JPモルガン・チェース銀行債券為替調査部長からも、現場の実知に基づいた使える「技」に満ちています。
 たとえば、「円に買われる理由などいらない」、「米ドルに売られる理由などいらない」ということなど。理由は本書を読んでいただくとして、逆に言えば、円が売られるとき、米ドルが買われる時には理由があるということです。今はどのような理由で、円が売られ、米ドルが買われているのでしょうか。そして、「円」にとって今後重要になるアジア通貨との関係ではどうなのでしょう。

海外で稼いだ金を国内に還流させる政策の必要性 
 佐々木氏の次の指摘は、成長のための制度設計として、極めて重要な税制整備だと思います。
 「重要なのは、日本の企業が海外で稼いだ利益をすべて国内に還流したくなるような仕組み、税制を整備することであろう。2009年4月から海外子会社配当の益金不算入という制度ができたが、さらに、海外で稼いだ利益を国内に還流させ、新たなビジネスを開拓し、雇用機会を創出した企業がメリットを受けるような制度を作るべきではないだろうか。企業が海外で稼いだ利益を国内に還流させ、新しいビジネスを拡げれば、次に海外に生産拠点を移す企業で職を失う人の受け皿ができる」。

 アベノミクスは、現在の金融政策を一段と拡大することで、2%程度のインフレを目指すとされているのですが、佐々木氏の金価格の推移に触れた最後の一文、「悪政のインフレは需要増で起きるのではない。通貨の信認が失われた時に起きるのである。金価格の急騰は我々に将来そうしたことが起きるリスクに対する警告を発しているのではないだろうか。」は、とても気になるところです。
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