理論と実際

 班長の飯島です。暑さが戻ってきて、体力的にもつらいものがあります。気をつけて過ごしてください。。
 さて、8月に入り、5月31日の出納閉鎖機関を終えて、地方公共団体の当該部署は、22年度各会計決算の調製で大車輪(ちょっと古い表現でしょうか)の忙しさでしょう。
 ここからは、個人的な見解ですが、決算といえば、東京電力の平成23年3月期決算について、監査法人が適正意見を表明したことについて、様々な議論を呼びました。これからも、事態の推移によっては、さらに深刻な議論を呼ぶ可能性も否定できないでしょう。たとえば、原子力損害賠償支援機構法が国会において可決成立しましたが、附則第3条の適用の実際についてなどによっては、監査法人の責任も問われることになるかもしれません。
 このあたりのことについては、「公認会計士vs特捜検察」の著書で知られる細野祐二氏のコラムhttp://gendai.ismedia.jp/articles/-/5660が参考になります。興味のある方は著書も含めて読んでみるとよいかもしれません。すぐに、大阪地検特捜部の事件を思い出すでしょう。
 東電のことは、別の機会に譲るとして、あえて、ここでひとつだけ言っておきたいことは、電力事業者は、一般企業と違い、電気事業法によって、一般担保付き債券の発行が認められていることです。このことは、東京電力債の保有者は万一の時には、一般債権者に優先して弁済が受けられるということを意味しています。
 一方、損害賠償請求権は一般債権です。そうなると、第2条の国の責務の「万全を期す」ということの意味が問われるでしょう。一般債権である賠償金の支払いが困難になりかねない事態にたちいたった時にどのように万全を期すのか。政治の責任の「肝」がここにあると思います。

 さて、本題に戻ります。財政力指数の順位と経常収支比率の順を見比べてください。必ずしも、財政力指数が高い区が、財政の硬直化を表すとされる経常収支比率も良いわけではありません。逆に、財政力指数の低い区が、経常収支比率では、23区平均よりも良かったりしています。これは前回お話ししました。
 そこで、23区を4つのグループに分類してみます。
 第1グループは、財政力指数が23区平均より良く、かつ経常収支比率も良好(この場合は%が低いほど良い)ところ。
 第2グループは、財政力指数は23区平均より良いが、経常収支比率は23区平均より悪いところ。
 第3グループは、財政力指数は23区平均を下回るが、経常収支比率は23区平均より良いところ。
 第4グループは、財政力指数も経常収支比率も23区平均を下回り悪いところ。
 早速、分類してみます。ちなみに、財政力指数の23区平均は0,57、経常収支比率は82,0%です。

第1グループ(先の数字が財政力指数、後の数字が経常収支比率) 
港区(1,2/64,4)
千代田区(0,8/75,4)
中央区(0,67/78,5)
文京区(0,6/78,3)
ここではダントツに港区が財政的に恵まれていることが見て取れます。また、文京区が健闘していることも注目です。

第2グループ
渋谷区(0,99/82,3)
世田谷区(0,75/85,0)
目黒区(0,71/95,3)
新宿区(0,65/85,8)
杉並区(0,65/83,0)
目黒区が登場してきました。経常収支比率は23区の中で最下位です。新宿区も同じグループに属しています。朝日新聞の連載もこのあたりから掘り下げてほしかったと思います。
 渋谷区の登場は、ちょっと違和感と、不運な感じがしますが、これは案外、都区財調を意識した財政上の工夫の結果ではないかとも思えるところもあります。調べてみなければわかりませんが。
 このグループは財政運営もしくは施策の展開に課題があるのかもしれません。あるいは、23区の財政に大きな影響を与えている都区財調が関係しているのか、今後の分析対象区としては興味深いところです。

第3グループ
大田区(0,54/81,7)
品川区(0,53/74,6)
江東区(0,46/82,0)
江戸川区(0,4/79,9)
葛飾区(0,37/79,0)
足立区(0,33/81,9)
荒川区(0,3/79,3)
 このグループは、財政運営巧者のグループといえます。
 かつての中野区のライバルといわれた品川区は、財政力については別の数字と施策の体系で考えないと見えてこないものがあると思います。
 大田区もそのカテゴリーにはいるでしょう。江東区江戸川区葛飾区、足立区、荒川区の財政力指数をみれば、明らかに、何かがなければこの経常収支比率に収まることは考えられません。都区財調の効きが良いのでしょうか。それとも、財政運営の妙を発揮しているのでしょうか。それは、他の要因の分析を必要とします。

第4グループ
豊島区(0,51/83,5)
中野区(0,50/87,5)
練馬区(0,47/84,6)
板橋区(0,43/86,1)
台東区(0,42/83,3)
墨田区(0,38/90,2)
北区(0,38/84,7)
 第4グループに中野区が登場しました。顔ぶれをみると、明らかに施策でつま先立ちしているような頑張りの区が多いともいえますが、一方、その分、財政上の課題は深いともいえます。構造的な財政上の課題を抱えているのも関わらず、施策を拡大せざるを得ない要因が大きいとすれば、財政運営に剛腕か技が必要といえます。日本の経済状況が暗転すれば、打撃の大きい区といえるでしょう。
 
 実は、2つの財政指標は、理論と実際という領域の違う指数なのです。「都区財政用語事典」によれば、財政力指数とは、「一般に当該地方公共団体の財政力を判断する理論上の指標」であり、一方、経常収支比率とは、「経常的経費に充当された一般財源の、経常一般財源の総額に対する割合」で財政の硬直化を示すものとされています。
 理論と実際が連動している区がある一方、連動しない状況の区も、二つのグループがあります。
 実は、23区の財政力をみることは、当該特別区の財政構造だけでなく、施策体系や財政運営の巧拙をみていくことになるのです。それは、公共施設のアセットマネジメントや将来世代と現役世代との負担のあり方の問題など、地方公共団体の今後の財政問題を考える際に、避けて通れない課題の解決に必要な情報といえるでしょう。
 東京都と23特別区財政問題についての教科書的なものは、これまでも引用してきた「都財政用語事典」を除いて見あたらないのが現状です。地方公共団体の財務諸表作成が説明責任を果たす上で、当然になった時代、財務諸表分析を含めた改訂が待たれるところです。
 次回は、理論と実際をつなぐものと、時系列での分析を行ってみます。