危機は欧州からか?

 班長の飯島です。
 3年前の9月15日、リーマン・ブラザーズが破綻しました。以来、世界は金融危機から立ち直るどころか、いよいよ危機の様相を強めているように見えます。ギリシャ、イタリアの債務問題は、本番を迎えたとも見えます。「ヨーロッパのソブリン・クライシスが、リーマン・ブラザーズよりはるかに深刻なものになる可能性がある」と、あのジョージ・ソロス氏は、警告しています。
 そうした中、世界経済フォーラムが主催して、夏季のダボス会議が、中国の大連で開かれてました。その開会式での温家宝首相のスピーチは、ソブリン・クライシスのグローバルな蔓延の中で、中国の存在感を示す、物腰と発言でした。
 そのテレビ画面を見ながら、国際通貨の世界での、「ドル」と「ユーロ」と「人民元」の基軸通貨をめぐる三国志的展開は、ひょっとすると、新しい中世―相互依存深まる世界システム (日経ビジネス人文庫)に示されているようなブロック化へと進む恐れもあるのでは、と考えてしまいました。

 
 この際、国際通貨経済に関する基本知識の整理は、現在進行中の事態掌握のためには不可欠に思えます。その教科書は、他のところでも紹介した通貨経済学入門が面白いと思います。同書の中のコラムに映画「ゴールドフィンガー」がドル・金体制を基本軸にしたブレトンウッズ体制を背景につくられていることが紹介されているが、同じ視点に立った論評が最近の新聞に載ったりしています。


 さて、23特別区の財政力の問題です。財政の基礎体力が深刻に問われる時代に直面するかもしれません。
 まずは、経常一般財源比率を示した表を見てください。数値の良い順に並べています。なお、単位は千円です。

区名 標準財政規模 経常一般財源 経常一般財源比率
中央区 44,374,960 44,905,057 1.01
港区 84,539,710 82,927,298 0.98
千代田区 31,686,818 30,809,304 0.97
荒川区 60,651,415 55,852,922 0.92
台東区 55,675,219 51,259,882 0.92
墨田区 65,755,191 60,279,904 0.92
文京区 57,246,200 52,468,249 0.92
江東区 107,702,950 97,906,619 0.91
豊島区 67,658,974 61,438,343 0.91
品川区 94,820,843 86,081,981 0.91
足立区 166,681,177 149,570617 0.90
葛飾 114,367,095 102,438,241 0.90
北区 87,107,712 77,939,618 0.89
新宿区 83,288,301 74,087,433 0.89
江戸川区 159,440,815 140,420,037 0.88
大田区 164,388,198 144,463,781 0.88
板橋区 126,222,194 110,800,617 0.88
練馬区 165,287,728 144,560,679 0.87
中野区 77,446,251 67,729,103 0.87
渋谷区 63,330,869 54,901,325 0.87
世田谷区 187,329,511 161,185,363 0.86
目黒区 70,209,865 59,675,852 0.85
杉並区 121,166,858 102,948,027 0.85
23区合計 2,256,378,854 2,014,650,252 0.89

 経常一般財源比率とは、制度上想定される標準的な一般財源収入である標準財政規模で、現実に収入された経常一般財源額を除したものです。つまり、「当該地方公共団体における一般財源のゆとりをみようとするものである。」というのが、都財政用語事典の記述ですが、「この数値が高いということは、徴収率の向上と独自課税の実施などにより、歳入増加の努力を行っているものと推測される。」という自治体における公会計改革の記述もあります。この本は、全体の理解については、目配りが出来ていて、これまでに読んだ参考書の中では、一番使えるものですが、財務諸表を活用しての財務分析の説明に、ちょっと難点があります。そこを承知で読めば、面白い本です。
同じ著者の、歳入確保についての本もあります。
  



 表の順位をみると、驚くことに、最強のはずの港区が、2位に甘んじています。トップは中央区です。しかも、経常一般財源比率が1を超えるのは、中央区1区だけなのです。
 最下位は、目黒区と杉並区です。比率も、基準財政収入額を算定する際の基準税率と同じ0.85です。23区合計の比率の0.89以下については、徴収率向上の取り組みはどうなんでしょうか。
 一方、荒川区台東区墨田区は、先の財政力指数の表で見ていただけばわかるように、かなり低い区です。それだけに、徴収率向上に取り組んでいるということなんでしょうか。経常収支比率では上位にランクされていました。
 そして、目黒区です。ここでもランキングは最下位です。
 確かに、定義式からいうと、標準財政規模の計算要素の中で変動が見込めるのは、特別区税部分です。都区財調の算定を前提にすると、「自治体における公会計改革」の記述どおりとも思えるのですが、果してどうでしょう。次回は、さらに踏み込んで、23特別区の財政力を分析してみたいと思います。