財調交付金の財政パワー

 班長の飯島です。多くの地方公共団体で決算議会の、第3回定例会が始まります。すでに始まっている特別区も多いことと思います。
 前回に注目した、荒川区ですが、平成21年度決算版荒川区包括年次財務報告書が、早稲田大学パブリックサービス研究所が主催しているパブリック・ディスクロージャー表彰において、グッド・パブリック・ディスクロージャー賞を受賞したとのことです。この制度は「公会計改革推進プログラム」活動の一環として行われているもので、地方自治体における財務情報を積極的かつ適切に開示しようと取り組んでいる団体を表彰するものです。
 内容については、機会を改めて、チェックしたいと思いますが、荒川区は、千代田区とともに、自治体公会計改革宣言を行っています。
 財務会計の年次報告書を出すことを予定していた特別区はほかにもあったように思いますが、どうなったのでしょうか。
ディスクロージャーについての基本認識は、この参考書があります。


 さて、今回は、前回の続きですが、財政力指数と経常一般財源比率の一種の矛盾のついて、掘り下げてみます。
 まず、表からはいります。

区名 金額(単位:円)
荒川区 186,708
台東区 164,980
墨田区 144,432
葛飾 142,836
足立区 141,929
北区 138,582
千代田区 124,399
江戸川区 117,782
板橋区 109,823
豊島区 104,477
江東区 104,273
中野区 102,101
練馬区 100,761
品川区 99,846
中央区 98,153
文京区 92,423
大田区 84,669
新宿区 69,978
杉並区 58,805
目黒区 52,221
世田谷区 37,071
渋谷区 20,036
港区 9,727
23区平均 97,362

 この23特別区の一覧表は、なにを表したものとお考えでしょうか。
 実は、平成21年度、2009年度の、それぞれの区民一人当たりの財政調整交付金の額です。
 この一覧表と前回の経常一般財源比率の表を見比べると、納得がいくのではないでしょうか。
 つまり、一人当たり財調交付金額が多い区ほど、財政力指数は低くても、経常一般財源比率のポジションが良くなっている、ということです。
 財調交付金の交付率は、ざっくりといえば、財政力指数に逆比例するはずです。財政力指数のランキングを入れ替えれば、多少の順位の不同はありますが、この表の順位になってきます。 
 ただ、注意が必要なのは、千代田区中央区が、財政力指数が良いのにもかかわらず、区民一人当たりの財調交付金額が多いということです。港区は一人当たり財調交付金額は最下位です。中央区との経常一般財源比率の順位の逆転は、このあたりに要因の一つがありそうな気がします。
 財調交付金の算定にあたって、人口が少ない場合などについては、補正をするので、千代田区中央区は、その効果があると考えられます。
 補正係数の効果は経常一般財源比率への影響があると思われますが、財調交付金の交付額は基準財政需要額と基準財政収入額の差額というのが基本ですから、それをもって、直ちに経常一般財源比率が決まるものでもないはずです。標準財政規模との対比となれば、それぞれの特別区での財政事情によって、財政指数に影響を与える何かがあってもおかしくないでしょう。

 そこで、前回の経常一般財源比率の意味するところ、歳入確保への努力も併せて検討する必要がでてきます。
 付け加えますと、平成21年度の10年前の平成12年度ですが、区民一人当たりの財調交付金額は中央区がトップの261,286円、第2位が荒川区の188,583円でした。

 そこで、次回は、試論的な比率と、歳入確保についての努力の23特別区の状況を数字で見てみたいと思います。

ここで、番外編的に。 
 今回は、次の機会にきっと役立つ書籍の紹介をしておきたいと思います。今は、前回紹介の書籍で間に合うはずです。しかし、基本から財政的な理解を得ることと初歩的な知識とでは、切れ方が違います。本当に切れる問題意識を持ってもらいたいと思い、異例の紹介をしたいと思います。


 まず、相手の仕事を知ることです。


 かつて、霞が関に著者をお訪ねして、自治体の債務返済能力の算定について教えを請うたことがあります。そのときの教えを生かした資料請求が今も残っていると思います。じっくり本当の財政についての力をつけるのであれば、腰をすえて読んでみることです。きっと得るものがあるでしょう。


 町村という言葉で侮ってはいけません。地方公共団体における監査の視点を持つのにどれほどお世話になったかわかりません。監査委員でなくても目を通しておきたい本です。監査委員は当然でしょう。