「文庫」三点の今

人鳥堂の飯島です。意見は私個人のものです。
今回は、文庫です。

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文庫で読む、今
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今を考えるヒントがいっぱい



網野善彦著「歴史を考えるヒント」(新潮文庫
 タイトルは「歴史を考えるヒント」ですが、今日の状況を踏まえると、むしろ、今の日本を考えるヒントがたくさんあるように思えます。「日本」を取り戻すという言葉に遭遇したとき、いつ、いかなる「日本」なのか、「国名が決まったとき」を読むと改めて自明と思えていたことが、ちっとも自明でなかったことに気付いたり、道州制は、律令制のもとでの、広域的な地域の名称、否、行政単位の復活ではないのか?などと思ったり、現在も使われている、小切手や為替という言葉と中世の日本における商業・金融が高度な発展を遂げていたこと、経済の隆盛と室町幕府の法制(式目)など(これには早島大祐著『室町幕府論 (講談社選書メチエ)』という、かつてそびえ立っていた足利政権の権力を誇示した、相国寺大塔のエピソードに驚く、おもしろい本があります。今日のスカイツリーを思うとなかなか、です。)
 本書は、新潮選書の中でも、最も売れた本なのだそうです。文庫の帯にありました。
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没後2年の今

高峰秀子著「にんげん蚤の市」(新潮文庫
 高峰秀子さんて知ってる?って30代の女性に聞きました。知りませんでした。この本を教えました。文庫復刊は没後2年ということのようですが、良かったと思います。面白いエピソードでいっぱいです。よどみなく読めて、それでいて、はっとする、日常の真理があるようです。ほかの本、『高峰秀子 暮しの流儀 (とんぼの本)』で語られる「男は職場で見るのが一番」とか、趣味がいいと言われたときに、「いいか悪いかは別にして趣味はあるね」とかいうこと。趣味でもないのに、趣味だと思っていることのなんと多いことか。芥川龍之介は、「人は文なり」といったといいますが、「趣味」は「人」なりではなく、「趣味はあるね」という趣味は、「人は趣味なり」くらいの骨太さを感じます。
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引退の今は残日録ではない?


藤沢周平著「三屋清左衛門残日録」(文春文庫)
 引退してみると、世の中とのかかわりがこれまでと違って、軽いショックを受けるのは事実です。さて、引退と隠居は違うのか、どこが違うのか、いろいろ考えさせられますが、今や団塊の世代の定年退職、年金受給開始という日本社会で、どうなのよ、と、今を考えます。日記に「残日録とは書きたくない」と書いた、関川夏央著『やむを得ず早起き』を読んだのがきっかけで、本書を読み直しました。最後まで人生は生ききること、という著者の結論で、まっとうすぎる結論ではあるけれど、きっと励まされる人が多いと思います。団塊の世代でも。