「はらわた」の復権

人鳥堂の飯島です。意見は私個人のものです。

あらためて自分はどういう生き物なのかを知る

 新鮮な驚きに満ちている本というのはあるものです。三木成夫著『内臓とこころ (河出文庫)』が、まさにそれでした。

 肉体と精神、というのは、当然、関係ありと思っているわけですが、本書はそんな通念とは違う、内臓とこころについて、眼からウロコの知見に満ちています。はじめに、「膀胱感覚」からはじまるのですが、内蔵は、ものが詰まってきてあるところまでくるとグッと収縮する。膀胱感覚とは排泄への覚醒ですが、一方で、「胃袋」は空っぽのときに収縮する、とか、内臓感覚は、ノド元までで、「ノド元過ぎれば熱さ忘れる」で、ここから下の感覚は大脳皮質まで登ってこない、口唇と舌が内臓触覚となっているのだが、舌の筋肉は鰓の筋肉(内蔵系)ではなくて、体壁系の筋肉で、顔面の表情筋は全部鰓の筋肉だが、舌だけは手足と同じ相同の筋肉で、よく「ノドから手が出る」というのは本当のことで、舌はノドの奥にはえた腕で、ただし感覚は内蔵系であるとか、本書には、読むことで見出す、驚くべき発見で満ちています。
 なかでも、原書の思考とされる幼児が指差して音声を発する「指示思考」と「直立」の切っても切れない間柄、人間だけが持つ「視野拡大」という強烈な促迫の衝動、視界がグッと開けるときの心のときめき、この「眺望」の促迫が人類に直立をもたらしたという文に出会ったとき、自分のなかにかかる衝動のあることを自覚します。
 とまれ、「はらわた」抜きではものを感じることも、その感じを言葉にすることもできないことに思い至るとき、「はらわたの復権」を、この本で確認すべきでしょう。

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
新書の棚
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

     




・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
文庫の棚
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・