本は読むもの、活字の奥も

人鳥堂の飯島です。意見は私個人のものです。

石破茂、もうひとりのキーパーソン
 TPP参加交渉をめぐる動きが慌ただしくなってきたとメディアが伝えています。年内妥結が目標とされています。一方で、消費税増税の決断も秋にはくだされる予定ということで、二つの大きな政治課題も、結論に向けた動きが急加速しているようです。
 もちろん、決断の中心には安倍首相がいますが、ここで注目すべきもうひとりのキーパーソンが、石破茂自民党幹事長であることに異論はないでしょう。そこで、こわもての印象が強い石破さんとは、一体いかなる政治家であるのか、今後の発言を分析するうえでも知っておきたいところですが、参考とすべき一冊に、石破茂著『真・政治力 (ワニブックスPLUS新書)』があります。


 
 まるごと、そうだなどと言うつもりはありませんが、なにしろ、ご本人が率直な心情を吐露しています(もちろん丸見えであるわけがありませんが)。自民党を飛び出した理由も書いてあります。ご本人の弁です。判断は読者にあります。自己弁護とかどうとかということではありません。取り上げたテーマとその語りに浮かんで見える姿を、どう判断するかです。タイトルの意味するところは、本物の政治力とは何かを問うということでしょうが、「勇気と真心を持って真実を語る」という渡辺美智雄氏の教えにある政治家の姿勢にあることが強調されています。


衣の下の”本音”を見る努力
 TPPに関連して、食料自給について、なるほどという主張があります。「自給率ではなく問題は自給力だ」というものです。食料の自給率を政策目標にすることの愚かさを説いているのですが、なるほどです。食料の輸入が途絶えれば、自給率は100%になる、というのは、パーセントで政策を考えることの危うさを見事に示しています。必要とされる食料をどれだけ供給する力を涵養するかが大事ということでしょう。
 さらに、地域主権という言葉は嫌いだと言っています。主権というのは、「国民主権」と「国家主権」意外にありえないからだというのが、石破氏の見解です。また、「正直な話、もう日本には残された時間は少ない」というのですが、今が大事な時期だというのは同感ですが、時間がないのは今に始まったことではなくて、それなのに問題の解決を先送りしてきたことに「今そこにある危機」があるのでしょうに、と思っていたら、「おわりに」で、「先送りにしたがために国民に不利益を追わせてきた多くの問題の責任の大半は、長く政権を担当してきた自民党にあり、それは長く議員を務めてきた私自身が負うべきものです。」と、率直な反省の言葉がありました。憲法問題、増税論議、日米同盟などの考え方の切り口は、わかりやすく書いてありますが、言葉の向こうに残されているものもあるのは、政治家の本ですから当然でしょうね。でも、「なぜ日本にはベンツの工場がないのか」などは、面白い立論です。それが法人税率の問題に結びつくところは、読者の判断でしょう。ところどころにある、衣に隠れた本音を見る努力が必要なことは、どんな本を読む場合でも、当然のことでしょう。



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見に行きたい「駅舎」の数々

 観光立国を目指す日本の、足元からの検討材料について、温泉の問題や食品の問題などを取り上げてきましたが、さらに、観光資源としての「駅舎」について考えてみたいと思います。「東京駅」や「大阪・梅田駅」のことではありません。稼ぎにつながる経済振興は、じんわりと「地方」で効いてきてこそ、ではないでしょうか。観光は、じんわりと効いて稼ぎになり、懐が温かくなる、付加価値を生産する、最たる手段ではないでしょうか。そして、地方の観光資源の有力な一つが、「鉄道駅舎」にほかなりません。そこで、杉崎行恭著『訪ねておきたい名駅舎 絶滅危惧駅舎 ( 二見文庫 )』です。

 と、大上段に振りかぶらないでも、サブタイトルにあるように、一度は訪ねておきたい駅舎が、全部で131駅舎も紹介されています。もちろん、かの東京駅を設計した辰野金吾の手になる南海本線「浜松公園駅」からはじまり、廃線跡になお残る、名古屋鉄道三河線三河広瀬駅」まで、いずれは、あるいは、近い将来、姿を消してしまいそうな駅舎、地元の努力で維持・存続が図られている駅舎など、その運命は様々ですが、明治以来の、木造洋館駅舎やコルビジェ風やモダニズムでありながら地元の大工が建てたような駅舎など、観光資源という理性的考えの前に、おおっ!と単純に驚きたい風景として、訪ねてみたいですね。たとえば、JR肥薩線大隅横川駅」、駅前に立つ郵便ポストを含めた駅舎の風景には、横尾忠則ならずとも、惹かれるものがあります。また、木造駅舎の、旦那芸のような遊びを感じさせる、JR東海道本線「山崎駅」は、半円形の出入口と奇妙な四角いファサード、そして背後の山、サントリーの蒸留所があって、なおかつ、無名の駅であることなど、一度訪ねた時には、しげしげと見た記憶はなく、今一度行ってみたいですね。
 ただし、駅舎のガイダンスブックではあるのですが、「『日本』という列車はいま、急カーブが連続する難所を走っている。古きよき駅舎は遠心力で振り落とされようとしているのだ。皆が親しんだ駅舎がなくなり、しだいに駅前がなくなって、最後には地域が消えてしまう。」という筆者の言葉は、だから、何か打つ手が必要だという思いに溢れているのでしょう。ひとつの方策は、みんなが駅舎を見に行くことでしょう。ぞろぞろではないにしても。そして、JR肥薩線嘉例川駅」の明治36年建設の駅舎が地元の老人たちの手で淡々と守られてきたように、いまそこにある地域の資源を再発見して、大切にすることでしょう。


古墳は東京にもあります
 散歩のガイダンスの本ではありますが、やっぱり、深い志で書かれているのが、大塚初重監修『東京の古墳を歩く<ヴィジュアル版>(祥伝社新書222)』です。

 先の、駅舎もそうですが、時間という元手がかかったもの、歴史という、今の『私』につながるもの、というものは、どうにもならない存在感があります。たんあるガイドブックではなく、古代の家族のこころや姿まで思い入れることのできる本を目指したとありますが、近くの東京タワーと、全長125メートルもの大型前方後円墳である丸山古墳との対比は、古代と現代の絡み合いを感じさせるというのは実感ですね。
 それと、学校で教わった古代史や古墳にまつわる知識は、やや古びてきているようです。前方後円墳といえば、誰でも教科書の口絵写真を思い浮かべる『仁徳天皇陵』も、これは宮内庁が指定しているだけで、本書によれば、学問的な疑問もあるので、現在では地名をとって大山古墳と呼ばれているそうです。個人的には、仁徳天皇陵のほうが感じとしては、しっくりくるようなんですが。
 それはともかく、さあ、近くの古墳まで、ぶらりと出かけましょうよ。


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確実に個展を見に行きたくなる本
 この本を読むと、なにか、話し方のよく似た娘の、しゃべっている声が聞こえてくるのです。ミロコマチコ著『ホロホロチョウのよる (四月と十月文庫 2)』はそんな本です。
 

 マンドリンを弾く姿の写真が掲載されていますが、顔つきも似ているような気がします。もちろん、別人ですが。
 最近、絵本で賞をもらったようです。ウェブhttp://www.mirocomachiko.com/があるので見ました。受賞したのは、『オオカミがとぶひ (こどもプレス)』という絵本です。

 ガンダムの表紙に惹かれて手にした『illustration (イラストレーション) 2013年 09月号 [雑誌]』という雑誌に彼女のインタビュー記事が載っていました。それで、本書で見えなかったことが見えたりしました。

 とにかく、この本を読むと(ホロホロチョウです。)彼女の個展が見に行きたくなります(近くでやっているといいです)。この本との出会いをつくってくれたのは、『マダガスカルに写真を撮りに行く』という本を取り上げて、『四月と十月文庫』を知ったからです。繋がりが次の世界を開くということでしょうか。出会いに感謝、です。


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