テレビ番組のコペルニクス的転回なるか?

人鳥堂の飯島です。意見は私個人のものです。

半沢直樹シリーズ3作目、池井戸潤著『ロスジェネの逆襲』

 テレビドラマ『半沢直樹』シーズン2(と言っていいのでしょうか)に入っても順調のようです。すごい視聴率を稼いでいるわけですが、一体どんな人たちがこのドラマを見ているのでしょうか。年代や男女についてなどの分析は、今後のテレビ番組の傾向を占う上でも、いわゆるビッグデータではないでしょうか。今のテレビ番組の末期的状況には、いい加減うんざりしていますので。

仕事は客のためにするもの
 そんなこととは別に、この本を手にしたのは、単に先回りして、原作を読んでみるかということよりは、雇用問題を考えていた時なので、タイトルの「ロスジェネ」に気を惹かれたこともあるのです。「オレたちは新人類と呼ばれてた。そう呼んでいたのは、たとえば団塊の世代と言われている連中でね。世代論でいえば、その団塊の世代がバブルを作って崩壊させた張本人かもしれない。いい学校を出ていい会社に入れば安泰だというのは、いわば団塊の世代までの価値観、尺度で、彼らがそれを形骸化させた。」というのは、よく聞く世代論ですが、作者は続けます。「バブル世代にとって、団塊の世代は、はっきりいって敵役でね。君たちがバブル世代を疎んじているように、オレたちは団塊の世代が、うっとうしくてたまらないわけだ。だけど、団塊世代の社員だからといって、全ての人間が信用できないかというと、そんなことはない。逆に就職氷河期のしゃいんだからといって、全てが優秀かといえば、それも違う。結局世代論なんてのは根拠がないということさ。」と、当然の結論に落ち着きます。
 ただし、雇用や賃金の問題、つまり「仕事」に関わるもろもろが、現在、日本の行き着く課題であることを、本書は語っています。それも、極めて当然の、それでいて、かなり難しく、さらに希望を指し示す言葉で。ここが、いいですね。いまの組織が、世の中の常識と一致した常識を持ち、ひたむきで誠実な努力がまっとうに評価される、そんな当たり前のことさえできない、ダメな組織について、半沢は出向先のロスジェネ社員の「原因はなんだとお考えですか」という問いに、「自分のために仕事をしているからだ。仕事は客のためにするもんだ。ひいては世の中のためにする。その大原則を忘れたとき、人は自分のためだけに仕事をするようになる。自分のためにした仕事は内向きで、卑屈で、身勝手な部分で醜く歪んでいく。」と答えます。
 アベノミクスの成長戦略、要は勤労所得の増加、成長がなければ意味はありません。日本的雇用は本当に過去のものとしていいのでしょうか。会社とともに生きていく姿勢を貫いているかに見える半沢直樹は、私には、日本的雇用そのものの世界を感じさせます。
 いろいろ考えさせてくれたり、そういえばこんなIT会社の有名社長がいたような、とか連想が働いて、とにかく、面白い小説です。

堺雅人著『文・堺雅人

 半沢直樹を演じている堺雅人という俳優は、興味深いと感じます。どこか、普通の人を演じていたとしても、普通じゃないところを感じてしまうというか、全部は見えないという印象を持ってしまいます。そこで、ご本人の書いた本はないかというと、これがあります。多分、テレビドラマの人気もあって、文庫版が出たりしましたが、装幀がいい感じなので、『文・堺雅人』の方にしました。

 内容は、読んでのお楽しみですが、渋谷パルコ劇場の椅子の背もたれのハート型の話や、世阿弥の『風姿花伝』文を引用している「鼓」の、前をたたいても音として重要なのは後ろ革の振動だということなど、こちらも、半沢直樹に劣らず面白いことがたくさん書いてありました。


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