我々はなぜ人前で居眠りするのか?

意見は私個人のものです。

人鳥堂の飯島です。台風の被害に遭われた方々に、こころからお見舞い申し上げます。

COFFEE
 今朝は、「キリマンジャロ」でした。「タンザニアAA」は等級でしょうか。これは、やはり、コーキ君からの頂き物です。ゆっくりとドリップして。口中に、干し草というか、穀物系の匂いが広がって、心痛みつつも、安らぐ感じがありました。


実は秋もよく眠れるのですが、それでも眠い
 自分のことを棚に上げ、電車の中で居眠りしている人につい目がいってしまいます。なにしろ、最近では、携帯やスマホに夢中で、居眠りしている人の方が、日本人らしくて感じるからでしょうか。ところが、授業中や就業中、電車の中など人前で居眠りするのは世界的に見ると多数派ではなさそうです。ブリッギテ・シテーガ著『世界が認めたニッポンの居眠り 通勤電車のウトウトにも意味があった!』には、日本人の居眠りについて、日本人も気づかなかった有様が記されています。

 「居眠り」とは、「生理学的にはどうあれ」、「社会的には睡眠とは見なされていない。居眠りしている当人は「睡眠とは異なる状況」において「社会に参加しながら」眠っているのであり、まさに文字通り「居+眠り」しているのである。」この定義には、私にとっては「そうか」という発見がありました。
 「では「睡眠とは異なる状況で眠る」とはどう言う意味か?居眠りは理論的にはどう把握すればいいか?電車内や職場でのいねむりについてはさまざまなルールがあるが、それをどう理解すればいいのか?」、ウィーン大学日本学研究所で、睡眠に関する研究で博士号(日本学)を取得した著者は、いわば、睡眠に関する専門家です。その著者が、日本人も気づかなかった「日本における居眠りという習慣」について、そして、「その自然の行為に関して」、興味深い、外国人から見た視点を提供してくれています。

国会議員はなぜ本会議場で「居眠り」するのか?
 「蚊帳の外」という言葉や、単相睡眠文化圏、シェスタ文化圏、仮眠文化圏、そして、単相睡眠と多相睡眠の発展段階においてどちらが進歩しているのかという議論や中国における、「午睡」の位置づけの変遷や、男脳、女脳をめぐる京都大学名誉教授の説や家からタオルを持って学校に行く女学生(もちろんタオルは綺麗に折りたたんで枕にする)のエピソードなど、興味あふれる報告と分析が盛り沢山です。中でも、『居眠りの社会的ルール』で示された、「眠る国会議員」の節には、言葉もないほどの複雑な思いが湧きます。
 著者は、アメリカの社会学者アーヴィング・ゴッフマンの所説、「主要関与」と「副次関与」を引いて、「副次関与」について「主要関与の維持を危険にしたり混乱させることなしにその人が実行できる活動である」という言葉を紹介していますが、引用の意味するところは明白でしょう。通勤(移動)は主要関与で、居眠りは副次関与ですし、「支配関与」と「従属関与」では授業中の居眠りが例にあげられています。そうだとすると、国会議員の本会議場での居眠りは、質問や答弁にとっては「副次関与」であり、支配関与として出席している間に、従属関与として眠っているということになります。まあ、「従属関与は、支配関与を注目しないでいい場合に追求・専念する事柄である」というゴッフマンの定義の皮肉さはおいておくことにしますが。ですから、最近の戦略的マネジメントとしての職場でのうたた寝は、主要関与ということになります。

「居眠り」の効用というのは?
 ここまでくれば、もっと積極的に居眠りの効果を考えてもいいはずです。もちろん、著者はこの点についても最終章『居眠りの効果ー賢くなるための短眠法』で、読者に応えています。時間生物学(体内時計)という研究分野が1980年代以降、世界的に進歩してきたことは、都会の生活が眠らないことを基礎としていること、そして、世界のおよそ半数の人が、今や、都市に暮らしていることを考えれば、驚くべきことではないでしょう。そして、そこには自然のリズムの他に、主観的な昼夜のリズムや肉体リズムが存在しています。その中で、健康で元気でいるための睡眠とはどのようなものでしょうか。最近では、昼間の短眠の評価が注目されます。ちょっとキナ臭い、米軍の実験も言及されていますが(この点に関連した興味深い本については別の機会に)、日本人の研究者の書籍の紹介と分析は、ことさらに興味深いものがあります。二つに大別された著者とその著作については本書をお読みいただくとして、著者が最後に言うように、時とところを選ばず、「眠りは生物学的に条件付けられているだけでなく、社会的・文化的に習得するものでもあり」、自分にぴったりの眠り方と、その眠り方のよりどころとなる根拠(必要かどうかはわかりませんが、自分の納得のためでしょうか)を見いだすことが必要な時代になりつつあるのかも。

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