「円」か「人民元」か

人鳥堂の飯島です。

意見は私個人のものです。

今日の珈琲
今日はモカマタリでした。淹れ方は、ようやく「可」というところでした。うーん、難しいです。


人民元」通貨外交の本格開始か
 昨日の日本経済新聞に、インドネシアと中国の通貨スワップの記事が出ていました。両国首脳がジャカルタで会談、金融市場の緊急時に資金を融通し合う「通貨スワップ協定」などの包括的経済協力で合意したというものです。通貨スワップの金額はおよそ150億ドルで、2012年に契約が失効していたものです。ちなみに、日本とのスワップ協定は120億ドルで、ちょっと水を開けられたというところでしょう。習近平氏がインドネシアを、東南アジアで最初の訪問国として選んだ背景として、地域安全保障や経済面の重要性がある、と報じていますが、ここは、日本経済とも密接な関係のあることとして、より踏み込んで、中国の戦略・戦術を考えておいたほうが良いのではないでしょうか。
 日本にとっては、アジア地域における「円」のプレゼンスを高めておくことは、将来の経常収支の赤字化に備えて、打っておくべき必須の一手になりつつあります。貿易収支における赤字基調はほぼ定着しつつあり、経常収支の黒字を生み出しているのは、所得収支の黒字です。ここに、日本の「円」がアジア地域で”国際化”しているべき理由の一つがあります。
 

アジア通貨圏の中心は「円」か「人民元」か
 また、アジア地域の世界経済規模で見たときに、より重要性をます「成長ののりしろ」を考えるとき、投機的な資金の影響を減少させ、通貨の安定を図るために、「円」か「人民元」かの貢献がもとめられるということです。そこには、より大きな理由、基軸通貨「ドル」からの距離を取りたいという願望があると思います。それは、アジア通貨危機の経験が、リスク分散を求めていることや、世界の市場としての中国の台頭、世界が実質的に、「ドル圏」、「ユーロ圏」という通貨圏域を形成してきている時に、世界経済に占めるGDPの割合が拡大し、今後も拡大を続けると予測されるアジア地域において「アジア通貨圏」の形成への欲求が、無いとする方がおかしいと思います。
 そして、今後の通貨外交の上から、交渉カードとして、「円」のプレゼンスを高めておくことが求められるということなのですが、安倍首相の「セールス」に、こうした視点はあるのでしょうか。「円」で決済する貿易の比重を高めていくことは、現在、ドルペッグ通貨体制をとっている国々が、ドル一極体制から変換して、通貨バスケット制を共同して取るようなことになった時に、バスケットの中に、ドル、人民元と並んで、円がはいっているのかどうか。そして、実は、このことが、通貨体制の移行の容認なども含めて、アメリカの関心でもあるのではないでしょうか。
 中国は、「人民元」の国際化への圧力を、好むと好まざると受けていますし、通貨戦略の重要地域として、アジアを視野においていることは当然でしょう。
 こうした見立てに基礎的認識を与えてくれるのが、中條誠一著『人民元は覇権を握るか - アジア共通通貨の現実性 (中公新書)』です。既にあげたような問題点を検討した上で、著者は当面のアジア通貨システム構築に向けての提案をしています。詳しくは、お読みいただきたいと思います。

 安全保障は、軍事力というハードパワーだけでなく、より大きくは、文化におけるリスペクトを含む、「経済」というソフトパワーに依存しているのではないでしょうか。「財政の崖」問題で露呈しているアメリカの、経済をめぐるメンタリティーの弱点は、オバマ大統領の「アジア回帰」の脆弱性をも浮かび上がらせているように思います。それは、「2プラス2」での本音に対する憶測をよぶことにもなるのではないでしょうか。
 本書の中で、仮に「人民元ブロック」が形成されたとしても、その枠の外にある経済大国として、日本、インド、インドネシアがあげられていましたが、その一角であるインドネシアへの中国のアプローチは、いよいよ中国が通貨外交戦略の一手を打ってきた予感に満ちています。


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