「必要は発明の母」、「謎は発見の父」、か

人鳥堂の飯島です。

意見は私個人のものです。

今日の珈琲
今日はモカブレンド、適量のお湯で、美味く淹れることができました。


インカの道(インカ・トレイル)が示すもの
 ”謎”を解き明かして浮遊した自身の状態を大地に足のついた状態にしたい、つまり、知りたいという欲望は、その疑問が切実であればあるほど、人をして思いがけない行動に駆り立てます。時には冒険に、そして、時には知的探求に。
 こうしたときに、尊敬の念を持って、その探求に見せる粘液質なありように、脱帽する事例が多いのが、西洋人の場合ではないかと思えてなりません。最近も、映画のようなというか、たぶん映画のモデルの一つではなかったのかと思える、「探求」の書籍に出会いました。
 その一冊が、マーク・アダムス著『マチュピチュ探検記 天空都市の謎を解く』です。

 マチュピチュ遺跡の第一発見者とされるハイラム・ビンガム、しかし、19世紀に作られた一枚の地図が、アマチュア研究家の手によって発見されます。そこには明らかにマチュピチュ近辺と思しき土地が描かれていました。これは、ビンガムよりも前に、マチュピチュに行ったことのある者がいたことを示すものです。さらに、ビンガムが本国に送った遺物の返還請求が、ペルーの前大統領夫人からあったことにより、第一発見者の名誉だけでなく、「墓泥棒」に堕してしまうのか。そこから、著者の、ビンガムの業績と真実を求めて、ビンガムが歩いたあとをたどる旅に出ることになります。そして、旅が進んでいくうちに、著者の関心は、さらに、マチュピチュ建設の目的はなんであったのか、マチュピチュとは何か、という本質へと向かうことになります。
 と、ここまでくれば、「インディージョーンズ」かよ、と思われるでしょう。その点についても触れた箇所が本書にあります。
 まあ、それはそれとして、本書には魅力的な人物が登場します。それは、オーストラリア生まれのガイド、ジョン・リーヴァースです。ジョンは、インカの遺跡はインカ道(インカ・トレイル)でつながり、全体で一つの生命だととらえています。「すべてはつながっていたんだ」という言葉で、著者は「ビンガムがはじめて旅立った時に考えていたように、私もまたこのような場所を、打ち捨てられた中性のむらや教会のように、失われた自給自足の都市や聖地のようなものだと考えていた。トレイルは点と点をつなぐ地図上の線にすぎないと思った。が、もしジョンが正しいとすると、インカの人々は、非常に違った見方をしていたことになる。遺跡やトレイルは器官や血管、つまり生きた身体の循環系により近いもので、インカは一つの非常に大きな生命体にほかならない。」と、述懐します。
 物語は、マチュピチュで日の出を目の当たりにする場面で頂点に達するかに思われます。が、しかし、「真実はマチュピチュがつねに何かのミステリーであり続けるということ」だという著者の言葉が、私の場合は、次につながっていったのです。


切り札は現代天文学だった
 クスコの中央広場の大聖堂にある最も有名な絵画は、テンジクネズミをかこんだ『最後の晩餐』の絵だということが、『マチュピチュ探検記』に出てきます。そして、この有名な絵画が、謎の解明に向かう人の情熱と、そこで明らかになる思いもかけない事実、という、映画のようなもうひとつの物語へとつなぐジグソーの一片になっていたのです。
 そのもう一冊の書籍が、この「最後の晩餐」の謎を解明した、コリン・J・ハンフリーズ著『最後の晩餐の真実 (ヒストリカル・スタディーズ)』です。


 「最後の晩餐』にまつわる謎、それは、著者によれば四つあるといいます。その第一は、イエスの失われた曜日、水曜日に関するもの、第二が、最後の「晩餐」に関する問題、第三に、イエスを裁く時間はあったのかということ、第四は、イエスを裁いたとされる裁判の合法性、の四つです。しかし、歴史上最も有名と思われる事件の謎について、今日まで、誰も手をつけてこなかったとは思えませんし、なぜ、これらの疑問に著者が解答を示し得たのか、これらの点についての疑問を持ちますが、著者のあげる手法に答えがあります。
 その一、手に入る証拠は可能な限りすべて考慮すること。
 そのに、学際的な手法を用いること、例えば旧約聖書の研究を使う。
 その三、天文学の知識の活用。

 特に、天文学の活用、それも現代天文学によって、これまで解き得なかった疑問をといていく著者の手法を評して、解説では推理小説といっていますが、むべなるかなです。
 個人的には、裁判の合法性についてが特に気になるところですし、戒律からの解脱という点での、仏教、イスラム教徒の比較に及んだ解説も、そうかなと思うことはありますが、発想を豊かにしてくれます。

 「映画」ですか、いわずもがなでしょうが、もちろん、『ダビンチ・コード』でしょう、「謎」は違いますが。


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