グローバリズムを突き動かすもの

人鳥堂の飯島です。時候は、「寒露」の初候、「がんきたる」。ここでいう「がん」とは、雁のことです。

意見は私個人のものです。

今日の珈琲

 今日は、モカブレンドでした。事情によりモカマタリを加えたので、やや深みが増したようです。

もうひとつの「セプテンバー・イレブン」
 

 スーパーマーケットで、チリ産のキウィが売っていました。これが、5個入りのパックで198円で、安い。残念なことに、お酒はやめてしまいましたので、ワインも飲まないので、チリ産ワインの恩恵に浴することがなくなりましたが、フルーツは、節度を守って食べることは、むしろ、免疫性を高めるうえでも良いということで、早速買いましたが、りんごと一緒に二日ほど置くと食べごろです。
 さて、なんでこんなにチリ産の農産物が安いのか、それは、「TPP交渉」の山場を、国内で迎えようとしている昨今、人ごとならず気になるところです。「外交は、内交の方がむずかしい」という趣旨の内容の書籍はいずれご推薦する予定ですが、「TPP交渉」も同じ方程式のようです。
 それはともかく、チリ産の農産物のことですが、それは、1970年代のチリと現代の日本が、意外なところでつながていることを示している、というのが、中山智香子著『経済ジェノサイド: フリードマンと世界経済の半世紀 (平凡社新書)』です。


 「近年、クオリティが高いのに値段が控えめのチリ・ワインを食卓にのせたりレストランで注文したりする人は多いと思うが、チリのワインが輸入されてわたしたちの手元に安く届くメカニズムは、実は第一章で見たクーデーター後の経済政策に端を発するものである。また、ここ数年にぎやかに議論されている日本の年金制度の問題の元を辿っていくと、まさに当時のチリの年金改革に突き当たる。」、というのですが、もちろん、著者のスタンスは、このことが、チリの農民にとって豊かな暮らしをもたらしてはいないことの認識にたっているものです。
 ショックドクトリン、フリードマンも、市場原理の説明の例外とした企業と貨幣、それを扱う実務者が何よりもフリードマンの経済学を必要としたこと、ドラッガーの「レント資本主義」の発見とマネーの暴走、確定給付と確定拠出の年金制度の背景、そして、もうひとつのダイアリーでご紹介しているタックス・ヘイブンの問題http://d.hatena.ne.jp/kin-ichi/など、1973年9月11日のピノチェトによるクーデターは、今につながる、様々な問題の淵源となっているというのです。
 文字通り、現代世界につながる、「もうひとつのセプテンバー・イレブン」です。このクーデターに関係して、その後にアジェンデ政権時代に駐米大使であったオルランド・レテリエルの暗殺事件なども起きていますが、サルバドール・アジェンデ大統領についても、遺族の同意のもとで墓が開かれ、検死の結果自殺と確定したのは、なんと2011年7月のことだったというのですから、いかに、当時、吹き荒れた権力による抑圧と暴力がすざまじいものであったかを示しています。
 今につながる、もうひとつのセプテンバー・イレブン、を考える手がかりということでは、本書で紹介されています、ジャック・ペラン制作の『セプテンバー11 DTS版 [DVD]』という世界の名立たる監督の短編映画11本を集めた映画があります。

 また、リーマンショック後の金融危機における金融界と国内外の政治権力筋との関係、それと癒着する経済学の腐敗を暴き出したドキュメンタリー映画としては、チャールズ・ファーガソン監督『インサイド・ジョブ 世界不況の知られざる真実 [DVD]』も紹介されています。


「パブロの死」の真実は

 現在の世界とつながるという意味では、ポリティカル・スリラーの傑作、五木寛之著『戒厳令の夜〈上・下〉 (1976年)』があります。


 「四人のパブロが死んだ」ではじまり、「四人の老人のパブロが死んだ」で終わるこの小説は、最近、突然現代に蘇った思いをさせられるニュースがありました。
 アジェンデ大統領の死因について確定したのが、2011年であったということは前掲書のところで書きましたが、「四人のパブロ」のうちの一人、ノーベル文学賞作家パブロ・ネルーダ氏の毒殺疑惑を解明するために、チリ司法当局が同氏の墓の掘り起こし作業に着手したという時事通信のニュースが配信されたのは、今年の4月8日でした。その後、7月11日には、やはり時事通信の配信で、同士の遺体から採取した骨の一部を精密鑑定のためにスペインの大学に送ることにしたというニュースが流れました。鑑定はアメリカでも行うということですが、五木寛之が作品の中で描き、また、当時強いこだわりを持っていた1930年代のスペインへとつながるようなニュースに、しばし、作家の直感にうなりました。
 鑑定の結果が気になるところです。


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今月の新書の棚

  

もうひとつのダイアリーについて、アドレスを補足しました。