「安倍首相の背景」を読む、その一

人鳥堂の飯島です。意見は私個人のものです。

定点観測・東天

 日の出が早くなり、日の入りが遅くなり、少しずつ時の動きが見える感じがしています。寒暖の差が激しく、体調管理には一層の気配りが必要でしょう。


大寒 『水沢腹堅(さわみずこおりつめる)』
 一昨日の帰り道、道路の脇の金魚が飼ってある鉢に氷がはっているのをみつけましたが、氷の下の魚は、元気な様子でした。旬の魚は「本マグロ」だそうですが、ヒラメのほうがおいしかったですね。珈琲も、なつかしい高円寺の名曲喫茶ネルケン」で、本当に久しぶりに飲みました。


スピーチライターという『軍師』はなりたつか

 通常国会が始まりました。安倍首相の答弁を見聞きして、この答弁も、首相のスピーチライターの谷口智彦氏が手を加えているのだろうか、と、考えることがしばしばです。
 安倍氏と理念や思想信条が重なるとされる(手嶋龍一氏)谷口智彦氏の、二冊の著作を読んで以来、昨今の『軍師』ブームではありませんが、安倍首相の行動と発言に、谷口氏の姿が垣間見える気がするのです。たとえば、谷口智彦著『明日を拓く現代史』です。

 本書は、慶応義塾大学の大学院(システムデザイン・マネジメント研究科での講義をまとめたものですが、「当用現代史」と著者が書いているように、当座の用に立つ歴史としてまとめた講義の原稿ですが、安倍首相のビヘイビアの理解にも当てはまります。そのことは、「ニクソン・ショックとは何だったのか」という第七講に、ニクソン大統領の中国訪問が、日本に何の事前説明もなかったことに触れ、米国の外交記録に残されたキッシンジャー国家安全保障担当大統領補佐官の言葉の次のような個所をわざわざ引用していることを読めば、ピンとくるのではないでしょうか。
 いわく、「この項『世界中で、話が漏れるといったらあれくらい漏れる政府もないというのが、あの日本政府ですから』と述べたものがある(米国務省史料室1969−72年分資料集、文書番号102)。あるいはそのせいだったのか」。特定秘密保護法の背景としては、あまりにはまりすぎの感もありますが。
 本書について、大学院での講義原稿と言いましたが、著者の本音は「本書は変革を志す次代のリーダーにこそ読んではしいと思って書き綴ってきたものです。」というところに現われています。64年の東京オリンピックに関して、日本人とミリタリーについて講じ、戦後の講和とアメリカの対日支援、インドと中国との熱い戦争に触れ、スエズ運河をめぐり英国の外交戦略、そしてブレトン・ウッズ体制基軸通貨による米国システムと安全保障、中国リスク、同盟と国益の考察など、講義の中では、シグナルの存在とそれの読み取りという、インテリジェンスにかかわる言及もあちこちにあって、安倍首相の行動と発言のバックグラウンドを読み解くまたとないテキストと感じましたが、はたして、あなたはどう読むでしょうか。
 同じ著者のもう一冊については、次回に取り上げたいと思います。
 さて、本書の最終講義について感じたところを述べておきたいと思います。そこには、明治維新の時の名高い志士や指導者が黒船来航の年に満年齢で何歳であったのかの表が掲げられています。それによれば、坂本竜馬18歳、勝海舟30歳、岩倉具視28歳、島津斉彬44歳、伊藤博文にいたっては12歳という、十代から四十代の若さです。終戦に日における経済人の年齢は、二十代から五十代、政治家・文化人も、二十代から四十代、戦後高度経済成長を担った人々が70歳を超えたのが、1973年、それ以降は、はたして、バックグラウンドの共通性を踏まえた特定ジェネレーションの達成はあったのでしょうか。ベビーブーマーの一人として考えるところは複雑です。

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