『銀行問題の核心』を読む

人鳥(ぺんぎん)堂の飯島です。意見は私個人のものです。

清明 第十五候『虹 始めて 見(あらわ)る』

 きれいに晴れた空、案の定、暖かさを通り越して暑いくらいの感じです。旬の魚は「桜海老」、むかし、由比に、食べに行ったことを思い出しました。
 今日の珈琲は、「マンデリン」、アジアの珈琲がおいしいです。


ドラマ「半沢直樹」から「ブラック・リスト」まで思い浮かぶ対談集

 テレビドラマの「半沢直樹」の成功で、銀行と金融庁の検査に関心が集まったところで起きた「みずほ銀行の反社融資」事件、いやがうえにも関心を集めましたが、一方で、誤解もあったようです。いまでは銀行と金融庁の検査についての関心はそれほどでもないのでしょうか。しかし、日本のエスタブリッシュメント、「ベスト・アンド・ブライテスト」の栄光が地に墜ちるような事件は後を絶ちませんし、改めて、組織のガバナンスについて、平時と有事のそれを担える人と手法を考えておくべき時が来ているのではないでしょうか。
 ということで、江上剛郷原信郎対談『銀行問題の核心 (講談社現代新書)』をとりあげました。

 みずほ銀行の事件を中心に、その問題の核心がどこにあるのかを、組織のガバナンスの問題、クライシス・マネジメントやコンプライアンスの問題から、はたまた、行政機関、検察当局の問題など、くわえて、今日の課題になっている中小企業融資の実態などについて、「実は」という話を聞いて、経験に裏打ちされた知見を手に入れるのに、この二人の対談者ほど、うってつけの人選はないでしょう。


理研』をシミュレーション

 「平時には、そういう法的責任中心の考え方でいいのです。しかし、有事はだめです。」といい、弁護士も含めて組織のガバナンスという点で、点数を取れるエリートでは、有事のガバナンスには役立たず、有事には「あらゆる事態を想定したシミュレーションができるエリートがいないと」対応できないと言います。これは、佐賀藩とか長州藩あるいは会津藩教養主義薩摩藩郷中教育との違いで、郷中教育は文字をおぼえるということよりは、さまざまさ想定問題について答えを考えるという、シミュレーションの実践だったというくだりとか、あるいは、アメリカの「SDNリスト」(Specially Designated Nationals and Blocked Persons)のくだりを読んだ時に、テレビドラマの「ブラック・リスト」の暗喩について思わず考えてしまったりとか(本書には「なんでアメリカが経済制裁をすると日本企業が取引できなくなるのかというと、日本はアメリカとつながっているからかな、ぐらいにしか思っていなかったんだけど、実際はそうじゃなくて、アメリカ企業が行けないから、アメリカ企業が出ていくまでは、SDNリストで他国のビジネスを制限している」という発言があります。)、「不芳属性先」という言葉(これは銀行にとって芳しからざる融資先」というほどの意味らしいですが)にこもる恐ろしさ、とか、とにかく本書を読んでみると、知らずにいた今の日本の病理現象が見えてくるように思えます。
 本書で郷原氏が紹介している、『危機対応のフォーメーション』というツールは、思考の実験にちょうどいいと思います。この「フォーメーション」をつかって、「理化学研究所」の問題をシミュレーションしてみるのもいいのではないでしょうか。
 ガバナンスについてはもう一つ、ソフトバンク孫正義会長が資金調達を銀行からの借入れで行ってきたことについて、江上氏が「一方孫さんは、銀行からカネを調達して、「おまえら共連れだぜ」という感じでずっときているわけでしょう。そういう意味ではカネを銀行から借りることで、資金の出し手にガバナンスをちゃんと委ねているところはえらいところだと僕は思いました。」と語っているのは、見立てとして見事です。
 とにかく、面白い本です。



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