第一次世界大戦から百年、ここからの十年をどのように考えるか

ぺんぎん堂の飯島です。意見は、私個人のものです。

白露 第四十三候『草の 露 白し』

 そういえば、重陽節句の今日、曇っていた空は、急に晴れ間がのぞいて、昨日は部屋にとりこんでいた洗濯物を、外に干して風にあてるのにちょうど良いようです。
 果物は、梨がおいしくなっていますが、桃もここが盛りで、食べる時期なのだといいます。
 今日の珈琲は「ブラジル」です。


『今』という時、『これから』という時代を読むのが流行るのは何の兆しでしょうか?

 今年が、第一次世界大戦から百年ということで、「第一次世界大戦」や、「1914年」についての書籍が結構出版されていますが、一つの特徴は、『今』に引き寄せての語り口が多いということでしょうか。今の時代の出発点が、1914年、あるいは、第一次世界大戦からのグルーバルナ枠組みが今日に至る体制として続いているというような論調です。
 なるほどと思うこともありますが、時代を画して、いまに至る淵源を求めるということでは、1968年の「明治百年」もありますし、1971年や1972年に求める考えもあるでしょうし、それぞれともいえますが、でも、こうした「思考」の、そして「志向」の流行は、世界と日本、我らの暮らしの行く末がますます混沌としてきたと、心の奥では思い続けているからではないでしょうか。子どものはやり歌で王朝の衰勢を予感したという中国歴史書の記述などをフト思い出して、こうしたことは、何かの予兆かとも考えてみたくなります。

 それはともかく、海野弘著『1914年: 100年前から今を考える (平凡社新書)』です。



 タイトルのそのものずばりですが、「なぜ百年なのか?」について、「私たちは、一年をサイクルとして日々を過ごす。そして十年をディケイドとしてくくる。さらに、約三十年をジェネレーション(世代)とする。そしてだいたい三世代が一世紀(百年)に収まる。」と、人間の寿命に係る文明の「時間の生理」ともいえるものを語っていますが、ここに、「繰り返される歴史」という多くの人の好みの歴史観、時代感の源があるというのは違和感のないところでもあります。
 それで、「百年前の、1914年をピークとする1910年代は、大きな変わり目であった。そして、百年後の今、2010年代もやはりそうではないか、という二つの仮定で、近代史を考えてみたというのが、この本の意図であった。」のですが、それはまた、「これからどうなるのかを予想するためなのだ。」から、筆者はここで、フレデリック・ルイス・アレンの『オンリー・イエスタデイ―1920年代・アメリカ (ちくま文庫)』を引いて、「つい昨日の十年をふりかえるのは、つい明日、これからの十年を考えるためなのだ。』と語ります。
 それはこういうことだといいます。「私たちはこれからの十年について考える。そして未来へ向かって進んでいく。やがて、その十年に達する。その時、十年前に、十年後をどのように考えていたか、そしてこの十年をどのように歩いてきたかをふりかえり、今がいかなるものか、その意味を見出すのである。オンリートゥモローはオンリーイエスタデイの中でその意味をとりもどしていくのだ。」
 考えた十年が検証可能というのは、ドキッとする指摘です。

 もう一冊の本があります。小野俊太郎著『明治百年―もうひとつの1968』がそれです。


 1968年といえば、「若者の叛乱」という言葉でくくられる、私も大学2年生の時でしたが、新宿西口地下や、東大安田講堂にも行きました。なによりも、お茶の水のわが大学は、たいてい、スト決行中で、講義は休講が(自主的なものも含めて)日常でした。
 しかし、著者はいいます。「実際には、「明治百年=一九八六年」に起きていた変化は多岐にわたっていた。学生運動や政府の行事から、テレビのCMやにちじょうせいかつようひんまでさまざまな形をとる。文化現象に散乱している断片には誇張や偏見が含まれていても、その時代を知る手がかりとなる。それらの断片多くは年表や時代のまとめからは漏れ落ち、映画やテレビドラマの片隅や小説の一節にひょいと姿を現すにすぎない。身近なところでの変化を知るには、あちこちに出現するそうした小さな信号を読み落とすわけにはいかない。」と。
 こうした本書で、私は、あらためて、林雄二郎著『情報化社会―ハードな社会からソフトな社会へ (講談社現代新書 187)』を再発見し、松本清張著『Dの複合 (新潮文庫)』と、小松左京著『継ぐのは誰か? (ハルキ文庫)』の予見を、先にご紹介した海野弘の言葉とともに思い返します。オンリートゥモローはオンリーイエスタデイの中でその意味をとりもどしていくのだ、という言葉を。
 さて、小野俊太郎の最近著に『ゴジラの精神史 (フィギュール彩)』があることをご紹介して、中締めに。




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