ときには、大著に挑む

ぺんぎん堂の飯島です。意見は、私個人のものです。

冬至 第六十五候『さわしかの 角(つの) 解(おつる)』

 

上空は暖める何ものもなく、ただ晴れ渡って、一層の凛とした厳しい寒さです。
今日の珈琲は「グァテマラ」です。アジア系に比べると、素直な味に感じました。


『大国』の生き延びる道は?

 世界が、どこに向かって進んでいくのか、興味と関心を持たない人はいないと思います。今日の続きがまた明日、という楽天的な本能は働くのでしょうが、同時に、心の中では、少し先の見通しを持ちたいと願うのは、この先の景色を見てみたいという衝動が、人をして、直立せしめた根源にあるのであれば、当然の願望でもあるのでしょう。
 そこで、2015年がはじまるときに、今日のグローバル世界におけるビッグプレーヤのアメリカについて、いろいろと考えておくことは、翻って、日本のこれからについて考えることにもなるのでしょう。
 ということで、大著、グレン・ハバード、ティム・ケイン著『なぜ大国は衰退するのか ―古代ローマから現代まで』を取り上げてみました。



 本書、手にとるとホントに大著という実感がありますが、読みはじめると、意外に読みやすい感じがします。本書は、同じようなテーマを扱った類書の中でも注目度の高いポール・ケネディ著『決定版 大国の興亡―1500年から2000年までの経済の変遷と軍事闘争〈上巻〉』、『決定版 大国の興亡―1500年から2000年までの経済の変遷と軍事闘争〈下巻〉』を出発点としながらも、シュンペーターの「資本主義はその成功の故に滅びる」という有名なビジョンに似た、「帝国の拡大しすぎが衰退の原因」という結論を退けて、「帝国や国家は、経済面で作用している構造的な力を理解せずにバランスを失ってしまうことがよくある。いっぽう、国の支配者らはこうした力をたとえ理解していても、それに適応できないことが多い。これが現代の大国にも当てはまるのは不気味であり、また興味深いことでもある。
 本書のテーマのひとつは、政治的制度はたいてい変化が遅すぎて、経済面での事実の変化に適応できないことである。」と語っているように、経済の不均衡ととそれを生み出す過度の中央集権化、そして、それを解決できない国家の政治的停滞が衰退の原因になると論じています。
 さらに、「本書が新たに示すのは経済力を測定する新たな方法である。経済力とは、日常会話に良く登場するものの決して明確に定義されたことのない、漠然とした概念である。」というように、経済力の測定方法を示すというこれまでにない斬新なツールを提示しています。


政策アドバイザーとしての立場からの議論 

 「本書では、かつて繁栄していた社会について、それがそもそもどのように発展したかではなく、政治的・経済的な停滞にどう至ったかを分析する。本書の大部分は大国が陥った不均衡の研究であるが、この不均衡はつねに経済的なものなのだ。そして最終的にはこれらの教訓をもとに、米国がまさに陥ろうとしている不均衡に注目する。著者らは学者としてだけではなく、政策アドバイザーとしての立場からもこれを論じる。」というように、大国の衰退という問題にまさに直面しつつあるアメリカへの処方箋の意味もあるのでしょう。しかし、明治維新以来の、衰亡か再起化の分岐に直面していると本書で警告されている日本もまた、「歴史上のいくつもの大国が通ってきた道に米国を押しやる力になるのは、財政の均衡の破たんであると言ってほぼ間違いないだろう。」という指摘に謙虚に耳を傾ける必要があるでしょう。
 ローマ帝国、明朝中国、スペイン帝国オスマントルコ帝国、日本、大英帝国、ユーロ圏、現代カリフォルニア州、米国についての分析は、分かり切っているようで、興味がつきません。特に個人的には、鄭和の大艦隊が登場する明朝中国は面白いものでした。
 著者のグレン・ハバート氏はコロンビア大学大学院ビジネススクール校長であり、政治の世界でも活躍した経歴があり、ティム・ケイン氏は、ハドソン研究所チーフエコノミストですが、情報将校として米国空軍に在籍という経歴の持ち主です。翻訳の久保恵美子氏は、経済につながるジャンルの翻訳では知られた翻訳者、こなれて安心して読めます。

 さて、大著です。読書を堪能してみる年末年始というのはどうでしょうか。世界と日本の行く末が見えてくる気がしませんか。



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