自らの安全保障のために「彼のスピーチの目的」を知る重要性

ぺんぎん堂の飯島です。意見は、私個人のものです。

立春 第一候『東風(はるかぜ) 解凍(こおりをとく)』

 新たな循環のはじまりです。冷たい風のなか、陽射しの中には微かな春の兆しのようなものが潜んでいそうな気がしますが、やはり、風は冷たいというのが現実でしょうか。
 上空のせめぎ合う空気を映したかのような雲の様です。今日の珈琲は「キリマンジャロ」でした。


『インテリジェンス』が問われるから『スピーチ』が重要になる

 さて、一国の首相が何を語っているのか、そのスピーチに注目をしなければならない時を迎えているようです。インテリジェンスは、「情報収集」の能力が問われるとともに、「情報発信」の能力もまた、インテリジェンスの半分を占める力でしょうから。彼は果たして有能なスピーカーなのでしょうか?
 あたかも、生真面目で少し向きになっているようにも見える彼のスピーチのせいで不幸な出来事が引き起こされたかのように非難されたりすることは、正当な指摘なのでしょうか?
 ますますグローバル化する世界の中で、一国の命運を握っている人物のスピーチについて、私たちは、これまで以上に関心を持って、そのスピーチ目的や、それを聞く人々に何を期待しているのか、また、どのような行動を求めているのか等について、冷静に分析し、判断することを求められているのではないでしょうか。
 そのための適当と思われる方法のひとつが、「相手の身になって考える」という、古来からのやり方でしょう。つまり、スピーチをする側、スピーチ原稿を作る側の思考とスキルを知ることが、スピーチライターにとって大事なことであると同時に、聴衆の側がスピーチについての分析能力を高める有効な手立てになるでしょう。一種の逆読みでしょうか。
 そんな問題意識でいたところ、タイムズ紙のコラムニストでトニー・ブレア英国元首相のスピーチライターだったという経歴の、フィリップ・コリンズ著『成功する人の「語る力」―英国首相のスピーチライターが教えるライティング+スピーチ』をみつけました。



 著者は言います。「優れたスピーチはどれも一つの明確な役割を持っている。それは主題をどうするかでもなければ、明確な論点を示すことでもない。そもそもなぜスピーチをするのか、の一言で言い表せる。このスピーチをすることで世の中に何かしらの変化をもたらしたい。そんな素晴らしい結果を期待しているからこそ、スピーチをするのではないだろうか。」と。そして、「ここで考えてもらいたいのは、『何についてスピーチするのか?』ではなくて、『何のためのスピーチをするのか?』である。」とも。

 とすれば、一国のリーダーのスピーチ原稿を書くほどのスピーチライターが用意したスピーチは、注意深く聞いて、その発言を改めて読んでみれば、そのスピーチの目的を知ることは難しくないということでしょう。
 また、
「あらゆるスピーチは次の三つの機能のうち、少なくとも一つを持っていなければならない。」ともされています。
1、情報性:主な機能が聴衆に情報提供すること
2、説得力:主な機能がある問題について説明したり、反対意見を持つ人を説得すること
3、刺激:主な機能が、聴衆がこれまで考えたこともないようなことに取り組んだり、いままでは拒否していたことをしてみたり、何かを継続してやるよう刺激すること」
 
 そして、ルーズヴェルトチャーチルのスピーチの例を取り上げた後に、これら三つの機能は、「絡まりあい、優れたレトリック効果を生んでいる。最初に正しい情報が提供されなければ、中心的な機能である刺激が与えられることはない。同じように、スピーチで述べる内容について、まず精神的な力の存在があると説得されなければ、刺激を受ける人はいないだろう。つまるところ、そうした説得をするのは何らかの情報である。そして三つの機能は明らかにそれぞれが互いに支えあっている。」と書いてあることでも明らかなように、スピーチをする側の人にとって有益なことが示されているのはもちろんです。
 たとえば、「情報伝達をいちばんの目的にしているスピーチで、印刷物を配布すると失敗する。印刷物を読まず、スピーチにも耳を傾けない。あとで印刷物を読めばいいとわかっているからだ(実際には読まないのだが)。
ただし、あとで情報の要約を紙にまとめて配布するのはいいだろう。」という点などです。
 そして、「説得」するスピーチにすることを勧める理由など、具体的な知恵に富んでいます。
 著者は語ります。「あなたが持っている情報の裏側にある問題について考えよう。そして、あなたが真実として提示することを聴衆に納得させよう。人々に刺激を与え、あなたが正しいと納得させたい理由も考えよう。」と。


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