「今」を垣間見るような読書体験はほんものか?

ぺんぎん堂の飯島です。意見は私個人のものです。

春分 第十二候『雷 乃(すなわち) 発声(こえをはっす)』

桜は、風に舞う花吹雪の風情がなんとも言えません。あっというまに満開から散り急ぐ桜は、少し離れてみていたいです。今日は風が強いので、ある意味格好の花見日和かもしれません。
今日は、「カルモ・デ・ミナス ブルボン」、淹れ方を急いでは隠されたおいしさを逃してしまいます。


芸術は爆発だ!”として、人生は観光だ?

 芸術は爆発だ!といっても、記憶している人はだんだん少なくなっているのかもしれません。それにならって、人生は観光だ、とつぶやいてみたくなるような本が、ヤサカ観光バス株式会社監修『右手をご覧くださいませ: バスガイドとめぐる京の旅』です。ズバリのタイトルに言葉もありません。



 テレビ番組では、「路線バスの旅」がブームになっています。同じ仕立ての番組がけっこうあります。出たとこ勝負、「お仕着せでない旅」みたいなことで、心をくすぐる作戦ですね。しかし、それもまた、テレビ番組であるからには、それなりにしたてられているのでしょうが。
 それならいっそ、定番の観光バスの旅もあるわけで、事実、「はとバス」ツアーも人気にかげりはないようですし、面白くもなっていて、あなたまかせの旅の快適という人々も増えているのでしょう。観光立国ということでは、メインストリームはどっちでしょうか。
 たしか、「はとバス」を取り上げた本もあったと記憶しています。

 さて今回は、京都の観光バスツアー、私も一度だけ利用して、島原の遊郭の座敷をみたり、洛中の日本酒販売所で試飲したりしたことがあります。これは効率よく京都観光ができると思いました。
 意外性に満ちた路線バスの出たとこ勝負の旅も、うまくいけばめっ獣ですが、一方、ハズレのない安楽椅子に身をゆだねるような定番の観光バスの旅も捨てられない楽しさがあります。
 さて、本書で発見は、この観光バス会社の面白さでしょうか。なんでこんな本を出したのか、たぶん、時代を読んだ上での作戦でしょうね。70代女性をターゲットにすると、出てくる戦略のひとつかもしれません。
 豆知識もあって、たとえば、バスガイドさんは、お客様に向いていて、どうやって右左を間違えずに観光案内ができるのか?その秘密も明かされています。それは、運転手が見えた方が右側と覚えるのだそうです。
 『蛤御門』、NHK大河ドラマでやがて登場すると思いますが、この蛤御門、普段は開けないのですが、天明の大火の時に火が門に迫り、訳なく開けたことから、焼かれて口を開く蛤のようだというのでその名がついたと、本書のなか、ガイドさんの案内で知りました。


 その京都の、『泉屋博古館http://www.sen-oku.or.jp/kyoto/の、青銅器の展示された部屋の暗い空間でみた、トウテツ文に被われた青銅器が思い浮かんだ本があります。宇野常寛著『楽器と武器だけが人を殺すことができる (ダ・ヴィンチBOOKS)』です。



 著者については、略歴を読んで、その限りの知識しかありません。タイトルがにひかれ、手に取りました。「僕は集団的自衛権の安易な行使容認には反対だし、安倍政権の立憲主義を踏みにじる解釈改憲にも批判的だ。しかし、それ以上に、こうしてアメリカの核の傘に守られている現実から目を背け、憲法九条があったからこそ戦後日本の平和が保たれて来た、なんて見え透いた嘘を此の期に及んで振りかざす左翼の愚かさと、それで安倍晋三が止められると思っている能天気さに軽蔑を禁じ得ない。」という言葉が、「ドラえもん」を取り上げた冒頭の章にありました。

しかし、それ以降は、取り上げられている論議の材料が、知らないものばかりです。それでも、妙な好奇心に突き動かされて、関心を持たざるを得ませんでした。そうなると、不思議につながることはあるもので、世田谷文学館でこの3月31日まで行われていた『岡崎京子展』を知りました。「戦場のガールズライフ」、「あたしはあたしがつくったのよ」(『ヘルタースケルター』より)という言葉が並ぶチラシをみて、さっそく、岡崎京子・著、増渕俊之・編『岡崎京子の仕事集』を手にとりました。



 雑誌『海燕』の特集、「今、時代をどのようにとらえているか」では、彼女は時代の向かう目的地について、「でも、そんなの私にはわかりません。」と語り、それでも、消去法で、「記号的な言動や解釈は力として、もうすでに私達にはとどいていないでしょ?」といい、さらに、「きゃしゃで繊細な喪失感」をあげ、最後に、「野蛮、退屈、魅力」の三種の神器のスローガンを掲げています。『退屈が大好き』というタイトルは覚えておこう。私にとって、本書はフロンティアの道しるべのようで、さらに、それは、古市憲寿著『だから日本はズレている (新潮新書 566)』につながりました。


 本書については、別途、取り上げてみたいのでここでは、つながったことまで。それにしても、『今』が垣間見えるような体験ができているような、錯覚かもしれない知的な読書感覚は、若い担い手によって、迷宮のように続いているのですね。

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