冷静であること、折り目正しいこと、世界は意外性に満ちていること

ペンギン堂の飯島です。意見は私個人のものです。

夏至 第三十候『半夏生(はんげしょうず)』

 梅雨寒と真夏日の気温の繰り返しが続いて、その間、じめじめとした空模様も相変わらずで、体調管理が難しいです。こういう草花の風情を見ると、早世したひとのことを思い出します。
 今日の珈琲は「ハラー地区・ロングベリー」です。同じエチオピアの豆でも違うものですが、大地のにおいがするのは変わりません。ちょっとうまく淹れられました。


「有事に冷静たること」の大事さ

 もう20年以上も前に、土佐の高知に出かけた時のことです。地元のムラカミ君が案内してくれた尾長鳥センター(今もあるのでしょうか?)で、無理やり尾長鳥を手に持たされて写真を撮られ、その写真を買うことになったたことを思い出します。「鳥的視点プライスレス」という一章は、それとは真逆な体験が語られていますが、読んで、尾長鳥体験を思い出しました。その一章を含む一冊が本書です。

倒れるときは前のめり有川浩 著)



 「有事に冷静たること」という著者の言葉は、英国のEU離脱をめぐるいろいろを見ていると思うだけでなく、日本国内でも、GPIFの運用を含む決算をめぐるいろいろについてのマスコミの対応や政治家の発言にも、同様のことを感じてしまいます。年金支給額の決定の仕組みと、その財源構成、積立金がやがては、給付金として費消されていき、賦課方式となることなどをふまえて、いかなる基本ポートフォリオを組成するかということを冷静に議論すべきだろうにと思います。
 それはさておき、著者の取り上げたテレビ番組、「ダッシュ村」、地方創生を考えると、こういう番組こそが、力になるのではと思わざるを得ません。政府の政策とは関係なく、テレビ番組に触発され、農業に関心を持ち、地方に若者が目を向けること、そのうえで、使える仕組み、施策があることが大事なのではとか考えてしまうのです。
 「いったい何という冷静な人たちがこの番組を作っているのだろうと心洗われた。悲観せず、楽観せず、やみくもに原発を否定することもせず、ただ現実を受け入れ、対処や可能性を探る。それは今のマスコミや世論が最も見失っていることではないだろうか。過激な行動を起こせば、過激な論陣を張れば、一瞬世間は注目するだろう。しかし、それは結局のところ一時的な痙攣に終わってしまう。」と語り、「 一過性で終わってはならない物事こそ、冷静に検討を推し進めていかねばならない。性急で感情的な行動や論調は、むしろそうした検討を邪魔するだけだ。」と結論する著者に、思わずうなずく私です。
 もちろん、本書のタイトルが坂本龍馬由来であることは、言うまでもないことですが、そういえば、竜馬記念館だけでなく、植物学の巨人、牧野富太郎の記念の施設も、今の内藤廣設計のものではない、もっと落ち着いたたたずまいの施設をたずねた記憶があるのですが、おぼろげです。


なぜ学名はラテン語

 あなた、学名になぜラテン語がつかわれているか知っていましたか?私は、この本を読むまで知りませんでした。


植物はなぜ動かないのか: 弱くて強い植物のはなし (ちくまプリマー新書)稲垣栄洋 著)



 最近では、NHKの朝ドラの影響もあってか、植物学者についての関心も少しは出てきたように思いますが、著者によれば、依然としてマイナーな学問のようです。しかし、本書は面白い知見に満ちています。先に述べたラテン語の件ですが、分類学の壮斗、リンネがラテン語を採用したについては、ラテン語を口語として使う人がいないことで、公平であり、変化がないからだというのです。
 また、家紋に「カタバミ」が好まれるのはなぜかとか、植物の進化が、マントル対流で巨大な陸地が形成され、古生代オルドス紀の4億7千万年前に、海中より地上のほうが光合成には有利であることで、植物の上陸を促したことや、そもそも、植物はなぜ葉緑素を持つようになったのかとか、その謎の中に、動物である私たちにとっても少なからず教訓的なエピソードが山のようにあるのでした。
 根も葉もない植物が存在すること、つまり茎だけの植物ですね。それも、海から陸への進出が要因です。また、「はてな」という生物、動物から植物に変化するという、など、まあ、とにかく、一読すると、身の回りの植物を見る目が変わります。


折り目正しい視線の高さを考える

どんな視線でものをいうのか、それが極めて大事なことに思えるのです。そこで、著者のこの一冊、今年になって文庫本の十九刷改版が出たので、取り上げました。
 

木 (新潮文庫)幸田文 著)



 静かな語り口の中に、すっとまっすぐな、視線を感じる文章なのでした。そして、「えぞ松の更新」の一列を重ね、視線の水位のようなものを常に平衡に保つには、などと、私にとっては、徒労に終わるあれこれを考えることも楽しくなる一冊です。



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