蚊に刺されても感染症にならない二つの方法

ペンギン堂の飯島です。意見は私個人のものです。

小雪 第五十八候『虹 蔵(かくれて) 見えず』


トランプ大統領で、感染症対策は大丈夫か?

 朝方、どんよりした曇りがちの空が広がっていましたが、昼近く、青空になりました。今日の珈琲は「エチオピア・カッファ」でした。モカにはいろいろな豆の種類があるようで、魅力の多彩さに驚きますが、香りと酸味がポイントで、いかにも珈琲が果物だということに気づかせてくれます。
 先週、母を老健施設から骨折治療のために、三鷹の病院に連れて行きました。老健施設も三鷹市にあります。病院について受付をのチェックをしているときから、とても混雑していると思いましたが、レントゲン撮影がすんでから、診察待ちで整形外科の診察室の前に行ってみると、内科受診の高齢者であふれかえっていました。しばらく様子を見ていて、それが、インフルエンザの予防接種を受けに来院している人々だということがわかりました。
 今年はインフルエンザの流行が早めだというニュースが流れています。また、鳥インフルエンザウィルスが発見されたというニュースもありました。20世紀末から21世紀にかけて、感染症のリスクがかつてない高まりを見せ、すでに克服したと思われていた感染症が再登場するなどの事態が、未知の事象に加えて発生しています。
 そして、この分野にも、”トランプ・インパクト”とでも呼べるような、安全保障上の課題が懸念されているというのです。
 大統領選挙戦のさなか、フロリダ州に選挙キャラバンで足を踏み入れたトランプ氏は、『ジカ熱』対策についてきわめて冷淡な発言だったというのです。トランプ氏の発言で、米国の軍事費を他国のために使うのが嫌だとすれば、「Naval Medical Research Unit three」http://www.med.navy.mil/sites/nmrc/Pages/namru3.htmの今後が懸念されるという指摘がなされています。エジプト領土内に存在する米軍施設ですが、世界の新興再興感染症対策になくてはならない施設なのです。WHOやNIH、米CDCなどと協調して、マラリア鳥インフルエンザ、多剤耐性菌問題、各種感染症サーベイランスまで守備範囲におさめ、イエメン、サウジアラビアオマーン、シリア、スーダンウクライナ等に活動範囲が及んでいます。この予算が縮小されるようなことがあれば、感染症との戦いに与えるマイナスの影響は計り知れないという専門家もいるようです。
 このような米軍施設が世界に展開されているということになると、アメリカは世界の警察であるだけでなく、世界の保健所でもあるのだという、アメリカの巨大な存在感について改めて認識させられました。もっとも、最近話題になっているパナマ文書で連想が及ぶパナマ運河、成否を分けたのは、蚊についての、米国の取り組みだったというのですから、この分野も案外、国益に通じるものがあるのでしょう。


蚊媒介性感染症のリスクは人口規模800万人以上の大都市で一気に高まる

 保護主義が米軍の海外展開の見直し、予算の縮小、感染症対策の後退という、思いもかけないサイクルにつながりかねないという指摘は、軍事的安全保障の問題と同じような、ある意味ではそれ以上の地球規模のリスクの増大ともいえるのではないでしょうか。というのも、発展途上国が離陸に成功して、経済成長を続けていけば、人々は都市へと集まってきて、途上国において巨大都市が出現してくることは、歴史の示すところでもあります。「蚊媒介性感染症のリスクが一気に高まるのは、人口800万人以上の巨大都市であり、発展途上国の大都市が今後続々とこの仲間入りを果たそうとしています。」と語るのは、今回ご紹介する、研究室で万単位の蚊を飼育しているという本書の著者、嘉糖洋陸氏です。


なぜ蚊は人を襲うのか (岩波科学ライブラリー)嘉糖洋陸 著)


 蚊が人を襲って吸血するときに、恐るべき病原体を人の体内に注入します。ところが、実は、すべての蚊が人を襲って吸血するわけではないのです。本書によれば、雄と交配した雌の蚊だけが、まさに人を襲って吸血するのです。そこで、蚊媒介性疾患という敵を制圧するために、「単純に2種類の戦略が採用されます。」というのです。

二つの戦略とは

 一つは病原体そのものを標的とするもので、迅速かつ簡単な診断法、切れ味のいい治療薬、長期間効果が持続するワクチンなどの開発とその実装が、その戦術になります。ヒト―ヒト間で流行する感染症には適用できるのですが、同時に、「制御」には人的介入があることを意味するのだそうです。つまり、薬があってもそれを処方し飲むのは人自身で、例えばマラリア患者で治療を拒む人が一人いたら、それは200人のマラリア患者の発生につながるというのです。
 そこで、第2の戦略、「蚊自身に狙いを定める」という戦略が出てくるというのです。殺虫剤、DTT、ポリスチレンなどですが、不妊昆虫の利用という戦術もあるのだそうです。病原体の非媒介蚊がマラリアなどの流行地域において優占種となれば、マラリア原虫が感染者の血液から蚊の中に入り込んでも死滅してしまうということになるわけです。このアイデアは、1991年に世界的戦略プログラムの一つとなって具体化したのですが、その顛末は、本書をお読みください。すでに提案から20年以上がたって、「必要とされる技術はほぼすべての段階で達成されている」ということですから、成否の行方は、今後数年で新たな時代に突入することは間違いないのだそうです。
 1970年代、インドにおけるネッタイシマカ不妊雄を放飼する野外実験がいかにしてとん挫したか、現在に通じるエピソードです。



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珈琲豆はこれでした